【千原弁護士の法律Q&A 〈特別編〉】▼346▲ アムウェイ会員逮捕/今後、注意すべきポイントは?(2021年11月25日号)

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〈質問〉

 ネットワークビジネス(NB)会社の法務責任者です。日本アムウェイの会員が、特定商取引法違反で逮捕されたとの報道が先日あり、社内において衝撃を受けています。そこで次の5点について教えていただけないでしょうか。(1)特商法違反で個人が逮捕されることは、よくあることなのでしょうか。今後も当業界対象にこのような逮捕が続くのでしょうか。(2)今回、逮捕まで行われたという背景はどういうものでしょうか。(3)さらに会社の経営者まで逮捕されることはあり得るのでしょうか。(4)このようなケースは行政処分に直結するのでしょうか。(5)NB会社において、今後、注意すべきポイントを教えてください。(NB会社法務責任者)

〈回答〉業界への影響ないが、会員教育の充実は最重要課題

 報道された概要を見ると、日本アムウェイの26歳と38歳の会員が、マッチングアプリで知り合った、23歳の女性をエステに連れ出し、入会を勧誘したとして、京都府警が、特商法違反の疑いで、二人を逮捕したということですよね。
 私も驚きましたし、たくさんの顧問会社から問い合わせが多く寄せられています。
 ご質問に順にお答えしましょう。
 (1)特商法違反には、行政処分だけではなく、刑事罰まで規定されており、特商法違反による逮捕は、日本中、日常茶飯事的に行われています。
 多いパターンとして、(1)個人や個人規模の訪問販売業者が、露骨な特商法違反を繰り返し、逮捕されるもの(2)大規模な消費者被害が起き、行政処分等も行われた後、会社の経営者らが逮捕されるもの─があります。今回のようなNB会社の、それも会員が逮捕されるというケースはとても例外的なものだと思います。


今回の逮捕は特殊なケース

 今回の逮捕は、特殊であり、今後もそのような傾向が続くことは基本的にないと思います。
 (2)今回の逮捕の背景ですが、以下は私の所感です。
 NB関係では、かねてから「若年層のへの広がり」「SNSを利用した拡散」「若者による、消費者金融を利用した商品購入」などが問題となり、消費者庁による注意喚起が行われてきました。
 これまでの行政処分の中でも、経済力のない若者が「交友関係の中で断れない状況」において勧誘された事例がありました。また、「学生時代の友人」間における、若年層の勧誘行為が処分根拠とされた事例もありました。
 こう考えると、今回の案件も、23歳という「若年者」に対する「SNS」を利用した勧誘ということで、まさに、この流れどおりの内容だと思います(実際の被害者はもっと多いと思います)。
 また、逮捕された内1人が、兼業が禁止される公務員だったということも、あえて逮捕まで行われた大きな原因になったと思います。
 そういう点からも今回の逮捕は個別的、例外的なものだと思います。
 (3)会社の経営者等が、今回の問題に直接関与している、あるいは容認しているなどの事情があれば別ですが、そのようなことはないでしょうから、経営者等の逮捕はなされないと思います。
 (4)行政処分ですが、特商法違反逮捕↓すぐに行政処分という関係にはありません。
 行政処分については、PIO―NET情報による特商法違反件数が継続して多い(特に特定の違反類型)、あるいは急に増えたといった事情などによって、これまでどおり判断されると思います。
 したがって、日本アムウェイに関して、今回問題になったような若年者被害などのPIO―NET情報が、多く積み上がっている状況であれば、今回の逮捕の案件なども総合的に考慮した上で、行政処分がなされる可能性はあります。
 一方、そのような事情がなく、今回の案件が、あくまで一部の会員の暴走ということであれば、それだけでは行政処分は行われないでしょう。


SNSによる勧誘に対策を

 (5)ということで、本件は、直ちにNB業界に影響を及ぼすような問題ではありません。ただ、行政処分を防ぐ対策も含めて、改めて会員教育を充実させることは、NB業界においては、引き続き最重要の課題だと思います。
 特にSNSを使ったリクルートや、若年者への勧誘対策は、本当に重要だと思います。会社において、しっかりしたルールを作り、会員教育に落とし込むといった努力を、継続して行っていくことが絶対に必要です。


〈プロフィール〉
 1961年東京生まれ。85年司法試験合格。86年早稲田大学法学部卒業。88年に弁護士登録して、さくら共同法律事務所に入所し、94年より経営弁護士。第二東京弁護士会所属。現在、約170社(うちネットワークビジネス企業約90社)の企業・団体の顧問弁護士を務める。会社法などの一般的な法分野に加え、特定商取引法・割賦販売法・景品等表示法・知的財産法を専門分野とし、業界団体である全国直販流通協会の顧問を務める。著書に「Q&A連鎖販売取引の法律実務」(中央経済社)などがある。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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