【千原弁護士の法律Q&A】▼382▲ 元社員による顧客奪取や引き抜きを防ぐ事前対策は?(2023年5月18日号)

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<質問>


 物販会社を経営しています。当社の元幹部社員のAは、当社のライバル会社のB社に転職しました。その後、Aが担当していた、当社の重要クライアントに強力に営業をかけて、奪取してしまいました。さらにAは、当社の有能な複数の社員に、B社に転職するよう働きかけてもいます。当社は、弁護士に相談して対処しましたが、結論として「Aの行為は法的に問題がない」ということになってしまいました。当社としては、どうすれば良かったのでしょうか。             (物販会社社長)

<回答> 当該行為を禁止する誓約書を取得

 最近は従業員の転職が当たり前になり、その中で、ご相談のような信義に反する行動が取られるケースも増えてきました。この問題は、かなり複雑なので、簡単に説明することは難しく、以下にポイントのみをご説明します。

 結論としては、当該行為を禁止する誓約書を取得することが非常に重要です。

 (1)まず、ライバル企業への転職を禁止する、いわゆる「競業避止義務」を従業員に課すことができれば、そもそも、そのような問題は起きないですよね。これは「競合他社への転職を禁止することが明記された誓約書があること」が最低条件となります(なければ、転職は完全に自由です)。
 その上で、現時点までの裁判例の傾向を踏まえると、その誓約が法的に有効になるためには、(1)対象社員が幹部クラスである等、重要な営業秘密やノウハウを取り扱う立場にあること(2)競業避止義務の代償となる金銭の支払いがあること(原則として、退職金ではなく、明確に競業避止義務の対価という位置付けでの支払いが必要です)(3)義務の期間や範囲が合理的に限定されていること─などの要件を満たすことが必要と考えられます。
 これは憲法上の「職業選択の自由」の要請から来るものです。
 社員一律から取得するのではなく、幹部社員に昇格するタイミングで、そのような誓約書を取得し、また退職に当たって代償金を支払うような措置も考えられるでしょう。
 なお、法的に有効とされるハードルは高いですが、抑止力にはつながるので、有効性は別にして、誓約書はなるべく広く取得するという方針もあり得ると思います。

(続きは、「日本流通産業新聞」5月18日号で)

<プロフィール>
 1961年東京生まれ。85年司法試験合格。86年早稲田大学法学部卒業。88年に弁護士登録して、さくら共同法律事務所に入所し、94年より経営弁護士。第二東京弁護士会所属。現在、約170社(うちネットワークビジネス企業約90社)の企業・団体の顧問弁護士を務める。会社法などの一般的な法分野に加え、特定商取引法・割賦販売法・景品等表示法・知的財産法を専門分野とし、業界団体である全国直販流通協会の顧問を務める。著書に「Q&A連鎖販売取引の法律実務」(中央経済社)などがある。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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