【ネットが拓く〈リテンションの時代〉】連載第24回 顧客から加入者に変化

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■店販と通販の違い

 以前、化粧品会社の通販部門をお手伝いしたことがある。化粧品会社を立ち上げた30年前は、デパートをメインにして販路拡大に注力し、30年間で年商60億円ほどに成長していた。
 21世紀初頭から化粧品販売に占める通販の比重が増加してきたため、その会社も通販分野に参入した。しかし、店販と通販のビジネスモデルの違いを吟味することなく参入したために、その後大きな後遺症を残すことになり、通販部門の強化を依頼された。
 そこで、顧客情報の活用方法と接客方法は、店販と通販では質・量ともに大きな違いがあることを認識してもらうことから始めた。
 店販で販売ノウハウを磨いた会社は、顧客情報は店頭での「おもてなし」をベースにした感覚的な運用が主体で、店舗側からの働き掛けよりも顧客の都合によって来店の頻度が変化してしまう。
 イベントやプレゼントといった販促施策を実施し、来店を促進してはいるが、最後は客の気分次第である。
 一方、通販はコンタクトセンターから得られる定量的なデータを下敷きにして、イベントやオファーといった刺激を主体的に発信ができ、頻度向上の情報設計が可能である。
 顧客情報をもとにした顧客とメーカーとのエンゲージメントを図りながら、初歩的なリテンション・マーケティングを実施することが通販のビジネスモデルの原点である。


■サブスクが浸透

 その後、店販と通販の顧客情報や販売システムを一体化し、効率的にビジネスを運用しようとした。だが、ビジネスモデル自体の差を埋めることができないうちに、通販そのものが新聞・テレビ・DM・チラシなどのリアルからネットへ移行。
 機器もパソコンからスマホに移行してしまった。もはや「ネットで買っている」という意識すらなくなってきているように感じる。
 近年のネット商取引の進化はすさまじいものがあり、平成から令和になった19年後半には、どうなっているのか予測するのすら難しい。
 10月に予定されている消費税増税時には、キャッシュレス化によるデジタルマネーの流れが加速し、商取引も大きく変化していくだろう。
 商品の供給も「販売から使用」の流れが顕著となり、サブスクリプションモデルが徐々に浸透していくと予測される。
 商品とお金の関係も「販売=都度回収」から、「使用=長期に渡って回収」になっていき、消費者も「購入顧客からサブスクライバー(加入者)」に変化すると捉えることが必要である。
 デジタルで処理するものは全てデジタルに任せるという方法が定着することによって、供給者である企業と使用者である顧客は常に接触し続けることが可能となる。
 令和の時代には企業と使用者が関係性を深めていかざるを得なくなり、リテンション・マーケティング第二世代が始まる。


〈プロフィール〉
伊藤 博永(いとう・ひろなが)
 1993年3月、旭通信社(現ADK)入社。2001年4月、価値総研取締役、09年4月、ADKダイアログ代表取締役、12年1月、アディック取締役(現任)、15年9月、日本リテンション・マーケティング協会理事、18年4月、日本リテンション・マーケティング協会監事(現任)。

 筆者に関する問い合わせは、一般社団法人日本リテンション・マーケティング協会事務局((電)=03―6434―0703)まで。http://j-rma.jp/

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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