【ネットが拓く〈リテンションの時代〉】連載第14回 顧客を想定外に誘い込む

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■おもてなしが有効

 前月に引き続いてロイヤルティの話をしよう。ロイヤルティを語るとき、昔の商いで用いられた「おもてなし」の手法が有効ではないかと考えている。
 昔の商人は「一見客」を「ひいき客」にするために、顧客のかゆいところに手が届くような、言い換えれば顧客の琴線に触れるような対応をしてきた。「おもてなし」は、2020年の東京オリンピック誘致の際にも功を奏したことは記憶に新しい。
 「おもてなし」は、「客をもてなす」といったときに使われる「もてなす」を丁寧に表現した言葉である。そして「もてなす」は、「モノを持って成し遂げる」から来ている。
 ここで言う「モノ」とは、顧客に提供する商品という物質面だけでなく、顧客と接するときの扱いや待遇という情緒面の両方を指している。もう一つ付け加えるならば「表無し」の字のごとく、表裏がない心と態度で顧客に接することでもある。
 「おもてなし」を具体化するときに必要なことは、顧客を想定外の世界に誘い込むこと。顧客の想定していることを事前期待値と呼び、その期待値を満たすことによって、ロイヤルティ形成のスタートラインに立つことができる。
 期待値以下ならば、もちろんロイヤルティどころの話ではなくなってしまう。「おもてなし」によるロイヤルティ向上は、期待値以上の感動や驚きという世界に顧客を誘わなければ達成できない。


■丁寧に満足させる

 ロイヤルティの形成を図るためには、事前期待値の最低ラインを製品特性(効果・効能・機能)、店舗応対(外観・店員・コールセンター)、顧客間の評価(広告・口コミ・評判)の三つの分野で設定することが最初の段階である。
 次いで顧客を刺激する施策開発に移行するが、このとき考えなければならないことは「売りの姿勢」を意識の外に置くことと、顧客の誉め言葉やSNSのイイネ!という「見返り」さえも求めないことである。丁寧な上にも丁寧に顧客を満足させることである。
 個人的な話になるが、出張で行ったイタリアのホテルで、誕生日にバースデーカードと花束が部屋に置かれていたことがあった。チェックインの際に、パスポートを提示したことで分かったらしい。
 そのときはとても感動し、そのホテルへのロイヤルティが誕生した瞬間であったと思う。その後、個人的に再訪する際にも、そのホテルを予約し宿泊した。
 顧客とのつながりを維持しつつ、さまざまな局面で顧客の事前期待値以上の感動や驚きという刺激を、丁寧に提供し続ける。21世紀のリテンション・マーケティングは、わが国で芽生え始めた「絆とおもてなし」でロイヤルティを形成し、さらなる向上を目指していく方向に進むだろう。


〈プロフィール〉
伊藤 博永(いとう・ひろなが)
 1993年3月、旭通信社(現ADK)入社。2001年4月、価値総研取締役、09年4月、ADKダイアログ代表取締役、12年1月、アディック取締役(現任)、15年9月、日本リテンション・マーケティング協会理事、18年4月、日本リテンション・マーケティング協会監事(現任)。
 筆者に関する問い合わせは、一般社団法人日本リテンション・マーケティング協会事務局((電)=03—6434—0703)まで。http://j−rma.jp/

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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