【中国越境ECの”今と現実”】第18回 海外戦略の一環でローカライズ戦略をアピール

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■19年W11のポイントはライブコマースなど

 前回に引き続き、2019年のアリババ「独身の日(W11)」について、解説します。
 今年の「W11」のトピックスを上げてみると、
 1.アリババが、昨年ほどニューリテールをアピールしていない
 2.天猫が、昨年ほど海外販売をアピールしていない
 3.京東が店舗連携(オムニチャネル)をアピール
 4.蘇寧(スニン)の活躍が目立った
 5.ライブコマースが目立った
 6.新商品投入による売り上げ増が目立った
 7.拼多多(ピンドードー、PDD)のデータ非公開
 ─の七つがあげられるのではないでしょうか。主なものに関して詳しく解説してみます。
 まず、アリババが、昨年ほどニューリテールをアピールしませんでした。18年のW11において、アリババは、ニューリテールによる成果をアピールしていました。例えば、アリババが直営で運営する、ニューリテールスーパーの「フーマ」をはじめとしたリアル店舗での成果についてです。
 昨年のW11の際、「フーマ」では開店からわずか2時間半後に、前年のW11当日売り上げを突破しました。同じくアリババがサービスを展開するクイックデリバリーサービスの「ウーラマ」や飲食店を主とした口コミサイトの「コウベイ」なども昨年から大きく伸びました。「ウーラマ」は前年比14%増の売り上げを達成するなど、ニュースにも多く取り上げられました。
 それに対して、今年のW11では昨年と比べて、ニューリテールによる売り上げ増に関してのニュースが少ないのです。これは、実際の成果が出ていないというよりも、もはやリアルとネットの購買は融合し、マーケティングの一元化が定着してきたとみるべきではないでしょうか。


■海外子会社の戦略をPR

 昨年は、天猫において、単日で初めて物流オーダー数が10億件を超えたことが成果として大きく取り上げられました。それと同時に、W11の販売が世界にも広がっていることや、モスクワ、パリなどの海外倉庫からも大量の商品が当日発送されたといった話題が、昨年はニュースとなりました。
 「海外における当日配送」という点が特に注目されたのです。中国越境ECというと日本では、日本から中国への販売というイメージが強いですが、中国から外国への越境ECも増えています。世界に広がる在海外中国人ネットワークや、中国製品のクオリティーアップがその背景にはあります。
 アリババグループでは、グループの「ツァィニャオ」の海外物流ネットワークを双方向に活用することにより、今後のさらなる越境販売の拡大を目指しているのです。
 今年のW11においては、アリババが買収した「Lazada(ラザダ、東南アジアECモール)」の躍進のニュースが大きく報じられました。こうした点から推測すると、海外への販売は引き続き拡大しているのでしょう。海外戦略の一環として、海外グループ会社によるローカライズ戦略をアピールしたいという、アリババグループの意図も見えてきます。


〈プロフィール〉
小嵜 秀信氏
 Eコマース初期より大手企業のECサイト・通販運営に従事。その後、EC事業会社、ECシステム会社の経営を経て、中国国内にて輸入品スーパー事業と中国越境EC事業などを手掛ける。また、日本初のEコマース学術研究機関である東海大学総合社会科学研究所Eコマースユニットにおいて、客員准教授として学術研究・教育にも従事。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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