【中国越境ECの”今と現実”】第15回 安易な参入は危険な中国越境EC

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 前回は、越境ECプラットフォームの天猫国際が、日本企業の最も有力な出店先であるとお伝えしました。
 天猫国際以外のプラットフォームへの出店という選択肢は、なくはないのですが、売り上げを上げるためには、サイトの構築だけではなく日々の運営が重要になります。
 中国現地に運営拠点を作るか、運営代行ができる会社へ委託するかが必要となります。そのため、売り上げが見込めない越境ECモールに出店しても、収益を上げるまでに相当な時間がかかります。投資金額も同じく相当な額になりますので、選択肢としては厳しい、となるのです。


■数千万円のコスト

 多くの事業者から、「越境ECの運営委託をお願いするといくらぐらいかかるのか」「どのくらいのコスト計算をしたらいいのか」という質問をされます。
 あくまでもよくある想定という前提でお伝えすると、運営委託に関しては、委託先の規模感やスキルにより変動しますが、初期投資300万円~1000万円(主に申し込み手続き代行と初期デザイン)と、月額50万円~100万円の運営固定費用、それに、売り上げに応じた手数料10%前後がかかります。
 さらに、越境ECにおける送料分として、売り上げの約10%(直送が多ければ15%ほど)がかかります。他には、越境EC総合課税が一般的な商品で9・1%がかかります。
 つまり、少なくとも商品の粗利が30~35%以上はないと、そもそも事業として成り立たないという計算になります。もちろん、売価を上げて粗利率を増やす対応はできます。ただ、どこでも売っているような売れ筋商品の場合、価格競争が激しいため、「日本の売価と比較してもあまり変わらない」と判断されます。場合によっては、日本売価よりも安く販売をされてしまうというような状況です。
 つまり、小売りで越境ECによる収益確保はかなり厳しく、メーカーでなければ収益の見込みすら立たないというのが現実なのです。小売りとして中国越境ECに参入する場合、そこでの収益ではなく、インバウンドと絡めた知名度向上などの別のメリットがなければ、安易な参入は危険であるといえます。
 メーカーであれば問題ないかというとそういうわけではありません。中国市場で知名度がない商品の場合、認知度を上げるマーケティングへのコストが別途必要になるため、さらなるコスト増に耐える必要があります。
 自社による越境ECプラットフォームへの出店以外に、もう一つの方法があります。すでに出店しているサイト(企業)に対して、商品の卸販売をする方法です。大手越境ECプラットフォーム直営店への卸販売と、そこに出店している店舗への卸販売の二つがあります。
 大手越境ECプラットフォームへの卸販売に関しては、天猫やコアラ、JD、その他越境ECプラットフォーム直営店への商品提案となります。これらへの卸はすでに中国で売れ筋の商品がメインですから、これから中国越境EC市場を開拓していきたいというメーカーの商品に関しては、商談は厳しいものとなります。
 ただ、決まれば販売量はある程度の見込みが立ち、リスクが少ないために、可能であればこのルートで商品を流通させることをお勧めします。(つづく)


〈プロフィール〉
小嵜 秀信氏
 Eコマース初期より大手企業のECサイト・通販運営に従事。その後、EC事業会社、ECシステム会社の経営を経て、中国国内にて輸入品スーパー事業と中国越境EC事業などを手掛ける。また、日本初のEコマース学術研究機関である東海大学総合社会科学研究所Eコマースユニットにおいて、客員准教授として学術研究・教育にも従事。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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