【中国越境ECの”今と現実”】第6回 品ぞろえの天猫、物流のJD、本物のコアラ

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む

■保税倉庫を多数持つJD

 前回に引き続き、中国の越境ECモールについて解説します。
 中国EC市場で2番目のシェアを誇る京東(JD、ジンドン)は、自社直販を強化しています。京東は公表していませんが、越境ECプラットフォームである京東全球購(JDワールドワイド)でも自社店舗が中心の売り上げになっているようです。TモールとJDの両方に出店している日本企業に話を聞くと、同じアイテムをそろえても売り上げはTモールの方が圧倒的に大きいということです。ただ、もともとJDは3C家電と言われるパソコン・スマホ・家電類が強く、越境ECにおいても同様の特徴があります。日本企業が販売する商品の多くが美容・健康商品であるため、Tモールほど売り上げが良くない、という側面もあります。
 JDは中国版アマゾンとも言われ、自社直販による物流の強化を行っています。配送のスピードやクオリティーに関してはもともと評価の高いサイトでした。越境ECにおいても同様に自社物流を強化しており、越境EC用の保税倉庫(※)は現在7カ所を有しております。この物流に強いという点が、前回紹介した天猫国際とコアラの2サイトに対して、優位性が高いと言えるでしょう。日本企業の取り組み方としては、JD直営店への商品提供(卸販売)と自社店舗出店の2パターンがあります。


■圧倒的な情報量が武器

 考拉(コアラ)は、正式なECモールの名称を網易考拉海購といい、中国大手ゲーム会社の網易(ネットイース、本社中国広東省)が運営するECサイトです。他企業を圧倒するほどのレベルで、ネット上で流通する情報を把握しており、圧倒的な情報量を生かしたECサイトとして、最近急成長をしております。元々越境ECには力を入れており、自社サイトとしての機能と、モール機能を組み合わせた形で展開しております。自社販売がメインであるため、大量仕入れによる価格訴求や越境物流の強化などの施策を実施。本物を保証する海外商品を安く安全に買えるサイトとしてのブランディングもできています。
 物流に関しても大きな投資を行っています。中国国内だけでなく海外にも専用倉庫を18カ所展開しており、日本、韓国、香港、北米、欧州、オーストラリアなど、越境ECとして人気のある地域はほぼ全世界をカバーする物流網となっております。海外の正規商品が、その国のコアラの専用倉庫を経由して中国国内に輸送されるわけですが、そのことが「本物の商品である」というブランディングにつながっています。
 自社サイトでの販売が強いため、日本企業はこれまで、コアラへは商品卸という形態で取り組んでいるところが多かったのですが、最近はコアラが有するネット上の情報力と、「本物を多く取り扱う」というブランド力を見込んで、出店する企業が増え始めました。
 このように、中国における越境ECの三大サイトの強みはそれぞれです。Tモールには商品の品ぞろえの豊富さという強みがありますし、JDは物流の強さが強みと言えるでしょう。コアラは本物の商品であるという信頼性などに優位性を持っています。それぞれの特徴を把握し、メーカーであればTモールへの出店と、JDやコアラへの商品卸を組み合わせて検討するのもよいでしょう。小売であればそれぞれのモールへの出店を検討する形で、中国への越境ECに進出することになるのです。


 ※越境ECの保税倉庫とは…越境EC専用の物流倉庫。関税を払う前の段階で中国国内に在庫を保管でき、オーダー出荷ごとに簡易通関を行い発送ができる。物流コストの安い船便で大量に商品を持ち込み保管し、国内送料で出荷ができる。


〈プロフィール〉
小嵜 秀信氏
 Eコマース初期より大手企業のECサイト・通販運営に従事。その後、EC事業会社、ECシステム会社の経営を経て、中国国内にて輸入品スーパー事業と中国越境EC事業などを手掛ける。また、日本初のEコマース学術研究機関である東海大学総合社会科学研究所Eコマースユニットにおいて、客員准教授として学術研究・教育にも従事。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

中国越境ECの”今と現実” 連載記事
List

Page Topへ