【中国越境ECの”今と現実”】第16回 中国越境EC出店店舗へのアプローチ

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 中国越境ECの一つの方法として、越境ECプラットフォームに出店している店舗への卸販売があります。
 前回お伝えしていたように、モール直営店、特に天猫(T―MALL)やコアラ(Kaola)や京東(JD)などの大手プラットフォームは、基本的に売れ筋商品しか仕入れない傾向が強くなっています。天猫は、その中でも特にメーカーと直接取り引きをする傾向が強いです。日本の卸や小売では、よほどの人的つながりが無い限り、取引の土俵にすら上がれない状況です。大手プラットフォーム上位3社以外のプラットフォーム(VIPやREDなど)も同様の状況です。
 越境ECプラットフォームに出店している店舗への卸販売は、モール直営店への卸よりもハードルが下がるため、中国で圧倒的な人気商品を持たない企業にとっては、有効な販売ルートだといえます。
 もちろん、そのような店舗においてもやはり、「既存の売れ筋商品を最安値で仕入れる」取引のニーズが最も高いのはいうまでもありません。とはいえ、中小企業の売れ筋商品や、まだ爆発的には売れていないが今後売れそうな商品についても、取り扱ってもらえる可能性があることは事実です。大企業の売れ筋商品は、モール直営店だけでなく、他の店舗からも引く手あまたですから、価格競争になり利益が取れないケースがほとんどなのです。まだ競争が激化していない商品に対してのニーズがあるのです。
 店舗に自社製品を取り扱ってもらうためには、自社の取扱商品がいかに日本市場で人気があるのかを示す必要があります。例えば、マツキヨやドンキなどのインバウンドに強い店舗での販売実績や、その他大手量販店での販売実績、メディアでの掲載実績、日本でどのような層から支持されていて、どのようなニーズで商品の販売が増加しているかなどを示す必要があります。その上で、次に来る商品であることをアピールしましょう。
 中国で日本商品を取り扱う企業のバイヤーと話をすると、よく言われることがあります。それは、「日本の企業との商談って、どうしてみんな商品の品質のアピール(特殊な成分、特許成分、大学との共同開発)ばかりに終始をするのか。我々はどうしてこの商品が日本で人気があるのか、どのユーザー層にどのようにアプローチすれば売れるのか、というマーケティングの情報が欲しいのだ」ということです。
 その根底には「日本で流行っている」という事自体が一つのブランディングであるということがあります。私たち日本企業も認識する必要があります。「日本でのビジネスが厳しくなるから巨大な中国市場で」という考えではなく、「日本で売れる商品」を作り上げることに全力を注ぐ必要があります。それが出来上がったのを機に、さらに多くのお客さまがいる中国市場に打って出るという考えが、正攻法かもしれません。
 今回お伝えしたプラットフォーム出店店舗への卸販売は、商品の魅力を感じた店舗に商品を取り扱ってもらえたとしても、前回お伝えしたモール直営店よりも、店舗単体での販売量としては、少なくなります。ただ、多くの店舗で取り扱ってもらい、実績を付けて次の展開を目指すという意味では、一番現実的な選択肢と言えるでしょう。


〈プロフィール〉
小嵜 秀信氏
 Eコマース初期より大手企業のECサイト・通販運営に従事。その後、EC事業会社、ECシステム会社の経営を経て、中国国内にて輸入品スーパー事業と中国越境EC事業などを手掛ける。また、日本初のEコマース学術研究機関である東海大学総合社会科学研究所Eコマースユニットにおいて、客員准教授として学術研究・教育にも従事。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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