【インタビュー】 〈D2Cは本物か 後編〉スパーティー 深山陽介代表取締役CEO、バルクオム 野口卓也代表取締役CEO、サティス製薬 山崎智士代表取締役社長/ブランド訴求でも顧客を獲得できる

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(左から)サティス製薬・山﨑智士社長、バルクオム・野口卓也CEO、スパーティー・深山陽介CEO

(左から)サティス製薬・山﨑智士社長、バルクオム・野口卓也CEO、スパーティー・深山陽介CEO

 デジタル技術を駆使して、企業が商品を顧客に直販する”D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)”が注目を集めている。メンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」を展開するバルクオムと、パーソナライズシャンプー「MEDULLA(メデュラ)」を展開するスパーティーは、D2Cの先行企業だ。後編ではブランドの戦略や今後のマーケティングのトレンドなどについて、バルクオムの野口卓也CEO、スパーティーの深山陽介CEO、さらにこの2社の製造パートナーであるサティス製薬の山崎智士社長に聞いた。

 ─「バルクオム」がヘアケアに参入した狙いは。
 野口 満を持してヘアケアラインをリリースした。「バルクオム」ってメンズスキンケアの品質重視のブランドだよねという認知が、世の中の数万人の男性に得られた状態でスタートできた。今まで築いてきたブランドアセットを生かす形で育毛訴求じゃないヒットシャンプーを作りたかった。お客さまからもヘアケアへの要望をいただいており、待っていただいていた。おかげさまで出足は好調だ。事前予約や試供品の提供などを行ってきたので、直近では直販サイトからの方が売れている。発売日から定期購入を始めましたと言ってくださるお客さまもたくさんいた。リアル店舗への卸売りも推進する。すでに300店舗での販売が決まっており、これを1000店、3000店と広げていきたい。

■信頼関係構築が肝
 ─「バルクオム」はなぜ単品リピート通販でも獲得系の広告手法ではなく、ブランディング重視の広告戦略で成長できているのか。
 野口 今後の事業推進の必要性から、薬機法ギリギリまで攻めた広告はリスクが大きいと思っていたので、イメージ訴求で顧客を獲得する方法を模索してきた。その一つの答えとして、窪塚洋介さんをブランドアンバサダーに起用した。「肌にいい」と言わなくても、イメージ訴求で買っていただけるように広告のフローを組み立ている。ブランディング型のPRでは、単品リピート通販業界の中では一歩先を行く広告運用ができているのかなと思っている。
 ─アフィリエイトなど獲得系の広告手法で成長している企業もあるが、広告規制も強まる中でマーケティングのトレンドは変わっていくのか。
 山崎 マーケティングのトレンドは変わると思っている。これまで600くらいのブランドと契約しており、ほぼ100%が通販企業だ。コミュニケーションのトレンドは変わっていっている。一方、通販企業の勝敗要因は不変で、勝ち続ける企業は顧客との信頼関係構築がうまい。要するにブランディングが秀逸なのだ。「バルクオム」がブランド訴求で顧客との関係性を築き上げているのは、長期的に見れば正しいやり方だと思う。

■人に魅せられ投資
 ─サティス製薬はバルクオムやスパーティーに出資しているが、D2C企業に積極投資しているのか。
 山崎 戦略的にD2C企業に投資しているわけではない。今後の投資予定もない。バルクオムへの出資は、野口さんという人に魅せられたから。経営者はアートとサイエンスの2タイプに分かれると言われるが、野口さんはサイエンス側の人に見えて、アート側の人だと思う。バルクオムはブランドをリリースする際に、スキンケアを3アイテム投入した。通常のスタートアップは限られた資金の中から売れそうなアイテム1点をリリース。売れ始めてから次のアイテムを投入する。男性が手に取りやすい洗顔から発売するケースは多いが、実は洗顔からスタートしてスキンケアをクロスセルできた通販ブランドはほとんどない。バルクオムは3アイテムを同時に発売する判断をした。在庫の負担などリスクが3倍にもなることを恐れず、洗顔ブランドではなくスキンケアブランドとして認知されるよう3アイテム同時に発売した。この判断は実にアートだな、と感心している。このアートな経営者が、男性化粧品市場でどんな活動をしていくのか傍で見たくて出資をした。リングサイドの観戦チケットを買ったような気分だ。

■リスタートを支援
 ─スパーティーに出資した理由は。
 山崎 深山さんも経営者として魅力的な人だし、スパーティーの成長期待もある。しかし、一番の理由は再開めどの花火を打ち上げること。さまざまなうわさが流れていたので、早期にグッドニュースを出すことでブランドを風評から守ろうと考えたからだ。製造会社の選定で失敗しているので、今後はちゃんとした製造会社としっかりとしたパートナーシップを組んだ、というニュースを出すことが「メデュラ」再生のリスタートには重要だと考えた。
 ─「メデュラ」の今後の展望は。
 深山 商品回収もしているので解約するお客さまも出ているが、かなりのお客さまには継続していただいている。商品回収した際の箱の中に「再開を楽しみにしている」といった温かいメッセージもいただいた。そういうお客さまを大切にして、ブランドをより良いものにしていきたい。来年にはリブランディングを計画している。パーソナライズや顧客体験の考え方は変わらないが、お客さまがカスタマイズするための質問の仕方や、処方の幅などもっと突き詰めていきたい。

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