政府/景表法改正案を閣議決定/直罰規定や確約手続きの導入盛り込む(続きは、「日本流通産業新聞」3月2日号で)

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 政府は2月28日、確約手続きの導入や、罰金100万円以下の直罰規定などを新たに盛り込んだ、景品表示法の改正案を閣議決定した。政府として、2023年の通常国会に提出するとしている。改正案では、課徴金納付命令を繰り返し受けた、悪質事業者に対する課徴金の算定率を、これまでの1.5倍にする案も盛り込まれている。課徴金の算定ができない期間の売上額を推計できる規定も新設した。適格消費者団体が、事業者に対して、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請できる規定も盛り込んでいる。


■違反行為の情報がない場合も推計

 景表法の改正案は、1月13日に公表した、景品表示法検討会の報告書の内容をおおむね踏襲している。
 法案に盛り込まれた、主な改正事項は、(1)確約手続きの導入(2)課徴金制度の返金措置への電子マネーの使用の許容(3)課徴金の計算の基礎となる事実を把握できない期間の売上額を推計する規定の整備(4)違反行為から10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある事業者に対して、課徴金額を1.5倍に割増する規定の導入(5)「罰金100万円以下」の直罰規定の導入(6)適格消費者団体による、事業者への開示要請既定の導入─の主な六つだ。
 確約手続きの導入については、優良誤認表示などの疑いのある表示をした事業者であっても、是正措置計画を申請し、認定を得られた場合には、措置命令や課徴金納付命令の適用を受けないこととする制度。消費者庁では、改正案の成立後、1年半以内に、確約手続きの運用指針を策定するとしている。
 確約手続きを選択した事業者の社名などが公表されるかどうかは、運用指針の内容次第になる。ただ、景表法の改正案が基にしている独占禁止法では、社名が公表されており、同様の規定になるものと見られている。
 「売上額の推計」の規定では、違反行為を行った事業者の提出した資料などから、課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握できない期間の売上額を、関連事業者が持つ資料なども用いながら、内閣府令で定める合理的な方法により、推計できるようにする。消費者庁は現段階では、課徴金の合理的な推計の方法までは明示していない。
 独占禁止法では、課徴金額を推計する「合理的な方法」として、「計算の基礎となる事実が確認できる期間」の売り上げを日割りにし、「計算の基礎となる事実が確認できない期間」の日数を掛け合わせる方法を採用している。
 検討会では、独禁法の推計方法をベースにした議論も行われていたことから、独禁法と類似した推計方法を採用する可能性が高いとみられる。その場合、実際の当該商品の売上額に比べて、割高な課徴金を課されるリスクもありそうだ。
 消費者庁では、「事業者は会社法に基づいて一定の帳簿を保存しているはずだが、違反行為を認定した商品の情報が、その他の商品の情報はあるにもかかわらず、ない場合が存在する。そういった場合に、合理的に推計するという規定だ」(表示対策課・南雅晴課長)と話している。具体的な推計の方法については、改正案の成立後に、内閣府令で定めるとしている。
 「100万円以下の罰金」の直罰規定については、消費者庁は、優良誤認表示・有利誤認表示を故意に行った法人・個人に対して課すことを想定しているとしている。


■訴訟で裁判官の心証形成に影響

 「適格消費者団体による開示要請」では、適格消費者団体が、事業者に対して、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請することができる。事業者は、要請に応じる努力義務を負う。
 消費者庁では、「適格消費者団体は、商品の効果や性能に関する不当表示を立証するのが大変難しい。一方で、民間の団体に、不実証広告規制の権限を付与することも法制度上難しい。今回新設する規定により、直ちに法的根拠が発生するというわけではないが、事業者が合理的根拠を示さなかった場合、訴訟における、裁判官の心証形成に役立つのではないか」(同)としている。


買取サービスの規定は入らず

 景表法の改正案について、景表法に詳しい、東京神谷町綜合法律事務所の成眞海(せい・しんかい)弁護士は、「現状、消費者庁では、人的リソースの問題で、措置命令の件数を増やせていない。より柔軟に多数の案件に対応できるようにしたいという課題感が、今回の改正案からは読み取れる。悪質な事業者には、通常よりも強い処分ができるようにするという方向性も評価すべきだ」という見解を示した。
 薬事コンサルタントの関山翔太氏は、適格消費者団体による表示の根拠の開示要請が乱発される可能性を指摘している。
 「報告書でも記載があったが、消費者契約法においては、開示要請には『相当な理由があるとき』に要請ができるとしている。不当表示の場合においても、乱発するのではなく、『相当な理由があるときに限り』要請する運用が望ましい」としている。
 名川・岡村法律事務所の中山明智弁護士は、「今回の改正では、検討会に上がっていた買取サービスへの規制などは盛り込まれなかった。ただ、運用基準の変更などによって、導入される可能性がある」と指摘している。
 薬事法広告研究所の稲留万希子氏は、確約手続きの利用が進むとの予想を立てている。「措置命令をおそれている事業者は多い。『確約手続き』の制度を積極的に利用する企業も出てくるだろう」と話す。「ただ、どのような場合に確約手続きの対象になるのか、是正計画をどのように出すのかなど、不明な点も多い。ガイドラインなどで分かりやすく示してほしい」と話した。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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