日本マーケティング・リサーチ協会/恣意的なナンバーワン表記に警鐘/広告主のリテラシー向上呼び掛け (2022年2月17日号)

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一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の中路達也事務局長(写真左)と小林恵一事務局長代理

一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会の中路達也事務局長(写真左)と小林恵一事務局長代理

 一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会(事務局東京都、内田俊一会長)は、「ナンバーワンを取得する」という結論ありきで、調査対象者や質問票を恣意的に設定する不公正な調査が増えていることから、こうした「No.1調査」を請け負う事業者や、これらをあっせんする事業者に対して、中立的立場で公正に調査を行うべきと要請している。同協会は同時に、通販企業を含む広告主に対し、リテラシーの向上を呼び掛けている。
 同協会は、マーケティング・リサーチ専門会社で構成されており、マーケティング・リサーチの健全な発展と普及、倫理の確立を目指している。現在の会員企業は120社ほど。同協会は1月18日、「非公正な『No.1調査』への抗議状」を発表。この「抗議状」を通じて先の要請を行った。
 同協会の小林恵一事務局長代理は「ナンバーワン表記そのものが悪いのではない。『抗議状』では、調査の公正さを疑問視している。公正取引委員会が表記の仕方について指針を定めているが、調査のやり方を取り締まるようなルールはいまだにない。そのすき間を利用して、そもそも『ナンバーワン』と表示したいがための恣意的な調査が横行している」と声を上げている。
 「ナンバーワン」という結果ありきで、偏った調査を引き受ける、悪質事業者の摘発や処罰は法的に困難だ。広告表示を目にする、消費者側の教育には時間がかかる。同協会の中路達也事務局長は「表示主体として責任を負うことになるのは広告主。ナンバーワン調査を依頼する前に、よく考えていただき、リテラシーの向上をお願いしたい」と呼び掛けている。根拠が不確かなナンバーワン表記が横行し、ナンバーワン表記に対する消費者からの信頼が揺らげば、アンケートにも非協力的になり、そもそも消費者の声やニーズが見えなくなってしまう可能性がある。消費者に商品やサービスを提供する、企業や業界全体の不利益につながりかねない。


■通販企業の表示でも横行

 ナンバーワン表記は、通販・ECでも広告表記でうたっている企業が多い。景表法を含めた通販広告に詳しい薬事法広告研究所の稲留万希子代表は、「例えば健康食品は、表示規制の仕組み上、ナンバーワン表記によって他社との差別化を図る例が後を絶たない」と指摘している。
 例えば、ECサイト上で「顧客満足度ナンバーワン」と表示しているにもかかわらず、実際の調査は「サイトのイメージ調査」にとどまっている例も少なくない。商品を実際に使った人にアンケート調査を行ったわけでもないのに、「顧客満足度」とうたっている企業、ひいては調査会社があるということだ。稲留代表は「公正性や信ぴょう性に欠けると薄々気づいていても、他社もやっているからと『赤信号みんなで渡れば怖くない』の感覚で表記している通販企業が多いのではないか」と見解を述べている。


■表示違反で倒産の企業も

 実際に、ナンバーワン表記が景品表示法違反とみなされ、消費者庁から措置命令を受けた事業者は複数みられる。
 一例を挙げると、消費者庁は19年11月、接骨院を経営する事業者に措置命令を行った。同社は自社ウェブサイトで「全国の患者様から選ばれてNo.1」などと表記していた。この表示は実際には、同社が調査会社に委託し、同社を含む整骨院10社に関するイメージ調査の結果だった。措置命令後、同社は最終的に、倒産の道をたどった。
 悪質な調査事業者は、ナンバーワン表記をうたわせるためならば、どんなに偏った、恣意的な調査でも手段を選ばないことが多い。ナンバーワン表記は広告訴求の上で高い効果が期待できるが、一方で、表示が景表法違反の対象とされた場合の打撃は計り知れない。

薬事法広告研究所の稲留万希子代表

薬事法広告研究所の稲留万希子代表

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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