【キーマンに聞く! 〈楽天市場の新サービス〉】 楽天 コマースカンパニー マーケットプレイス事業市場企画部 ヴァイス・ジェネラル・マネージャー 海老名雅貴氏/モールとして外部環境の変化に対応

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海老名 雅貴氏

海老名 雅貴氏

 楽天は7月17日、出店者向けイベント「楽天EXPO」で、物流や販売に関する新サービスを発表した。サービスの概要はすでに紹介しているが、新サービスを統括するマーケットプレイス事業市場企画部の海老名雅貴ヴァイス・ジェネラル・マネージャーに、サービスの具体的な内容や導入の狙いについて聞いた。海老名氏は新サービスを投入する理由について、「外部環境の変化に対応するため」だと語る。

〈■物流の機能強化〉蓄積ノウハウ生かす

 ─20年までに楽天市場のすべての店舗の荷物の受託を目指すということだが、自社配送サービスでどの程度をカバーする計画か。

 対応地域の人口分布に応じた物量を賄うことになるだろう。外部企業とも連携し、ユーザーに利便性が高い形で配送サービスを構築する。
 ドローンやシェアリングエコノミーなど新しい技術も活用していく。イノベーションを起こすために投資をしており、テストしながらうまくいくものから順次サービスとして提供していく。

 ─なぜ今、物流を強化するのか。

 外部環境の変化に対応するためだ。昨年末から、「荷物を送れない」といった声を店舗さまから聞いている。EC業界はまだまだ伸びていくはず。売るモノはあるし、買ってくれるユーザーが増えていても、届けられなければ業界として成り立たたない。楽天としても危機感を持っており、われわれがやるべき取り組みだと考えた。

 ─自社倉庫を使う店舗のリードタイムやコストが、現状よりも悪化する可能性は。

 大手宅配会社に委託している場合でも、商品を集荷し、配送センターに集めて、各地域に配送する流れだが、自社倉庫を使う店舗さまが当社の拠点を経由してもステップは変わらないはず。手間やコストについてもあまり変わらないようにしたい。ただ、店舗さまによって契約内容が違うので一概には言えない。
 「ワンデリバリー構想」は単純にコストだけの話ではなく、楽天ならではのサービスを提供することが重要だ。その価値を提供できないのであれば、これまで通り宅配会社に配送をお願いした方がいい。
 楽天の直販事業で実際にテストしているが、需要予測に基づき、商品をユーザーさまの近くに保管し、短いリードタイムで届けることができる。「ワンデリバリー構想」により楽天市場のUI/UXも変えていく。

 ─過去に楽天の物流代行サービスで配送遅延などがあった。物流の受け入れ態勢は万全なのか。

 「楽天スーパーロジスティクス」を始めて5年が経過し、継続して取り組みを強化してきた。オペレーションにも磨きをかけている。
 楽天の直販事業も成長しており、物流ノウハウも蓄積している。蓄積したノウハウを店舗さまのサービス改善に還元できる。
 新しいサービスは、われわれだけで作れるものではなく、店舗さまと一緒に作り上げていきたい。


〈■メールの新施策〉より効果的な仕組みに

 ─既存のメール配信サービス「R—Mail(アールメール)」から「R—Message(アールメッセージ)」に移行する方針だが、そもそも「アールメッセージ」とは。

 「アールメッセージ」のサービスは大きく分けて二つ。一つはシナリオメールといわれているもの。購入の3日後にお薦め商品を案内したり、半年後に買い替えを促すメールを送ったり、店舗さまがあらかじめ設定したシナリオに基づいてメールを送信できる。メールを自動化できるので、店舗さまの負荷軽減につながる。
 もう一つはレコメンドメール。メールに掲載する商品は店舗さまのものだが、送信者は楽天になる。「アールメール」では、店舗さまがパーミッション(許諾)を取ったユーザーさまにしかメールを送れなかった。「アールメッセージ」では、楽天がパーミッションを取ったユーザーに送信できるのでリーチできる範囲が飛躍的に変わる。
 楽天としては時代の潮流に合わせてメールの総数を絞っていきたいと考えており、データを活用し、ユーザーさまにはより効果的なメールを送る。ユーザーさまの満足度を高めていきたい。ユーザーさまが求めている商品は何かを分析した上で、楽天が掲載商品を選定して送る。1通のメールに何店舗かの商品が混在する形になる。「アールメール」よりもコンバージョン率は上がるだろう。
 「アールメール」は1通単位で課金していたが、「アールメッセージ」はメール内の店舗さまの商品がクリックされたら課金する方式になる。店舗さまにとっても効率が上がる。
 メールに対して、リアクションがあるユーザーさまに絞り込み、より効果的なメール配信環境を整えるため、店舗さまには「アールメール」から「アールメッセージ」にシフトしていっていただきたい。来年の3月1日から「アールメール」の無料キャンペーンがなくなったり、1通当たりの料金が0.75円から1円に変わる。


〈■チャット機能提供〉やれば成果につながる

 ─チャット機能は全店舗一斉に提供するのか。

 チャット機能の名称は、「R—Chat(アールチャット)」。9月下旬に全店舗に導入する。準備が整ったら機能をオンにすればすぐに活用できる。
 昨年から100店舗くらいでテストをしていた。店舗さまの感想を聞いたり、数字ベースで転換が良くなるのを確認した。半年以上テストしてきた結果、チャット機能はかなり有益だろうと判断した。時代の流れもあり、今まではユーザーさまと店舗さまが電話やメールでやり取りしていたが、チャットというチャネルを開放していく。

 ─チャット対応に消極的な店舗もあると思うが、全店舗へ導入する狙いは。

 チャット機能を導入した背景には、プラットフォームとしてユーザーさまの支持をどう集めていくかという見方もある。ユーザーさまから見たときに、楽天に来るとどういうサービスを受けられるのかという視点は重要だ。
 当然、店舗さまごとに個別の事情があることは理解している。楽天ペイも同じだが、時代によってどこまで共通のサービスで提供すべきかの線引きは変わる。商品やコミュニケーションの取り方などは店舗独自のやり方でいいと思う。決済手段やコミュニケーション手段はバラバラでいいのかというとそうではない。
 楽天としてはすでに3年以上前から、有人のチャット対応やチャットボットも導入している。店舗さまのテストにおいて問い合わせが一番多いのは、商品そのものについて。ユーザーさまが購入前に商品について知りたいと考えて利用しており、しっかりと対応することで購入に転換していく。チャット対応は目に見えて効果が出やすく、店舗さまにとってプラスが大きい。ユーザーさまも納得して買えるメリットがある。
 「手間がかかる」「なぜやらなければいけないのか」といった話になりがちだが、店舗さまにはぜひチャレンジしてほしい。毎日時間が取れなくても、少しずつでもできるところから取り組んでもらいたい。やればやっただけ成果があるはずだ。

 ─チャットボットはいつごろ提供する予定なのか。

 チャットボットの提供は来年以降になるだろう。まだノウハウを蓄積しているところだ。チャットボットが利用できれば、店舗さまも楽になる。
 問い合わせ内容に応じて対応を変化させることを目指す。簡単な一問一答についてはチャットボットで対応できるようになる。
 簡単に答えられない問い合わせについては、人が対応するといった併用ができるようになる。
 これまで決済についてなど、店舗さまで対応できない問い合わせも電話やメールであったと思う。楽天が答えるべき問い合わせについてもチャットボットで回答できるようにしたい。長い目で見れば、店舗さまの業務負担を軽減できる機能になると思う。


〈■アフィリエイト改定〉商品で変わる料率

 ─アフィリエイトの変更点と開始時期は。

 来年の2月以降にアフィリエイトの料率と計測期間を変更する。料率はもともと全商品一律で1%だった。今回、商品ジャンルごとに料率を変える。店舗さまがRMS(楽天市場の管理システム)で商品ごとに設定したディレクトリIDに基づき、料率が適用される。
 成果の認定範囲はこれまで、「クリックから30日間に購入」だったが、新しいプランでは「クリックから24時間以内に買い物かごに投入し、89日間に購入」になる。アフィリエイトの改定は、ソーシャルコマース推進の一環。アフィリエイターからすると料率が大きくなる一方で、成果認定が厳しくなる。アフィリエイトの効果を高めつつ、正確に成果を測れるようにしたい。

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