【地方創生 パネルディスカッション】内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部参事官 村上敬亮氏×楽天 常務執行役員 髙橋理人氏

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髙橋理人氏

髙橋理人氏

楽天は自治体に向けて、EC支援の重要性を訴え続けている。「楽天市場」で成功している地方の出店者の事例を踏まえて、自治体と共に事業者の自立的な成長に向けた支援に取り組んでいる。7月30日に、都内で「ネットショップ支援施策に係る自治体向け勉強会」を開催。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部の村上敬亮参事官と、楽天の高橋理人常務執行役員が「ECを活用した地方創生」をテーマにパネルディスカッションを行い、自治体による支援のポイントや楽天の事例について話し合った。


魅力的な商品を増やす
 司会 現在の地方創生の進捗状況は。

 村上参事官(以下村上) 各自治体で「ふるさと割クーポン」の発行を開始していますが、旅行券は完売しやすい一方で、商品券は販促を加えないと売れにくい状況です。アンテナショップに置いているだけでは苦戦します。商品券の販売はあくまで通過点です。辛口に言えば、商品券を売ることが目的になっているのではないでしょうか。商品券で売りたい商品を本当に売ることが大事です。民間企業では新商品の販売や新しい市場での販売に事業費の2~3割を販促費に注ぐのが普通です。本気でものを売るために販促費をかけている自治体は結果を出しています。
 
高橋常務執行役員(以下高橋) 楽天でも、販促の違いで「ふるさと割クーポン」の利用数に差が出ています。7月末現在で25の自治体から受託しており、対象商品の平均クーポン獲得数は61%で、利用率は5割強です。特に宮城県と岩手県はうまく運用しています。宮城県はクーポン獲得数が予想を上回る114%で利用率は74%、平均日商は880万円あります。岩手県はクーポン獲得数が80%、利用率が63%です。この2県はクーポン対象の商品が圧倒的に多いです。全国平均が112商品に対し、宮城県は1613商品、岩手県は2331商品あります。魅力的な商品を増やす上で楽天が全国に約600人配置しているECコンサルタント(ECC)を活用してもらいたいです。

若者が地元に戻る
 司会 地域が「稼ぐ力」を高める上で、ECの役割とは。

 高橋 事例として挙げたいのが宮崎県の「タマチャンショップ」(運営=九南サービス)です。04年の出店当時は3人で運営し、EC年商が53万円でしたが、昨年の売り上げは20億円になっています。九南サービスは国産シイタケの卸をしていましたが、中国産のシイタケが台頭してきて経営に危機を感じ、ECを開始しました。開店当初はなかなか売れませんでしたが、見かねた長男が東京から宮崎に戻って家業を手伝うようになりました。若者が地元に戻るということもECのポイントです。長男は「シイタケだけでなく、自然食品の店舗にしよう」と店舗を変革しました。ちょうど取り扱いをしていた白インゲンがブームになり月商がアップしたのですが、世間で白インゲンの健康被害が出てキャンセルが相次ぎました。ブームは一過性のもの。商品全体を見極めるようになりました。その後、雑穀米が大ヒットして12年に10億円を突破。現在は68人が働く大きな雇用を生んでいます。地元の山で自社農園「タマチャンファーム」もオープンさせて彼らのドリームストーリーを作っています。今では県内品だけでなく日本中のいい食品を取り扱い、「タマチャンショップ」で買うと安心・安全という、キュレーターとしても強い存在となっています。各自治体に「小さかった店舗がこんなに売れるようになったのか」という店舗を見つけてほしいです。

顧客リストを作る工夫を
 司会 「稼ぐ力」のためにECに期待することは。

 村上 売り方がよく分からないからとりあえずアンテナショップに置いておこうと、多くの自治体は安易に考えているのではないでしょうか。消費者に商品を届けるためには作る努力と売る努力の両方が必要です。役所は作る支援をしても売ることは民間に任せがちです。
 しかし、売る支援を自治体は真剣に考えなければいけません。売るためには(1)顧客リスト(2)物流・決済(3)商品ラインアップ119643が必要です。顧客リストを取得するために、例えばホテルの宿泊客に「気に入った方は個人情報をいただければふるさと名品情報をお届けします」と取り組みますが、役所の発想は宿泊客全員をチェックするものでなければやってはいけないとなりがち。3人に1人でも協力してくれれば多くのデータが集まるという発想になるべきです。顧客リストを作る方法はたくさんあります。販路開拓には顧客リストがないといけないし、稼働するためには物流と決済がないといけない。それで開いたトンネルを維持するためにはそこに次々と送りこむ商品ラインアップがないといけません。これを自社でできるフェーズの事業者が何社いるでしょうか。誰かがやってあげないと何も変わりません。ECはリアルで販路を作るよりも機会費用が安く参入できるので、こんなにいいチャンスはないと思います。

 高橋 ECは、(1)参入費用がリアルより安い(2)こだわりが伝えられる(3)ファンが作れる(4)地域産品だけにこだわる必要はない(5)外貨獲得(6)地域の雇用を生む119643という利点があります。地域がもっと元気になるための取り組みとして最適だと思います。自治体は事業者が自立的に継続的に発展していける支援をしていくことが重要です。

 村上 「域外だがその地域のファン」という顧客リストは地域の稼ぐ力に直結します。しかし、1社の取り組みでは難しいです。地域商社の形で発動したり、交付金を提案したりして、作ったリストを事業に活用して「魅力で売れる」販路につなげてほしいと思います。

村上敬亮氏

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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