【宅配クライシス対策最前線】 配送物のデータ把握で運賃交渉も可能/モール物流活用で宅配機器を回避

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 ネット通販の利用拡大などによって宅配会社のサービス体制が崩壊しかけている「宅配クライシス」は、EC業界にも大きな影響を与えている。宅配便の運賃値上げにより、経営環境が悪化しているEC事業者は多い。物流のコストをどう圧縮するか、どう利益を確保するかは喫緊の課題だ。「宅配クライシス」が叫ばれてから時間がたち、すでに対策の成果が表われているEC事業者もある。対策として実施できることは限られている。専門家の見解や対策を練っているEC事業者の取り組みから光明を見いだす。

 宅配会社からの宅配運賃の値上げは不可避だと思っているEC事業者は多いが、EC物流の専門家であるトークロア(本社東京都)の伊藤良社長は「必ずしもそうではない」と言う。
 「多くのEC事業者は、自社のECサイトにおいてどのサイズの商品がどのエリアにどのくらい配送しているかデータとして把握できていない。データをしっかりと持っていれば、宅配会社と交渉できる余地がある」(伊藤社長)と解説する。
 大企業の中には、倉庫に荷物の重さとサイズを自動計測するゲートを設置し、最終出荷前に配送物のデータを集積している会社もあるという。計測機器の費用はかつて2000万円ぐらいしたというが、最近では300万円台で導入できるという。
 「宅配運賃を下げることはできなくても、上がることを防ぐぐらいならできる可能性はある。データを持つことで倉庫の分散化などを検討することも可能だ」(同)と話す。


■パッキングに削減余地

 中小EC企業が配送コストを下げるために、見直す余地があるのはパッキングだ。配送物のサイズを小さくすることで、宅配便運賃を低減できる。
 商品サイズが大きい寝具のECサイトを運営する、まくら(本社千葉県)の河元智行社長は、「圧縮梱包による梱包サイズのコンパクト化、ネコポス対応などでコスト削減を図っている。布団セットやシングルサイズのスプリングマットレスも圧縮梱包することで160サイズ以下にできる」と話す。
 トークロアの伊藤社長は、「内容物の容量を検知し、段ボールのサイズを自動的に最小化する機器もある。余分な部分を切り、折り込むことで最小サイズに圧縮できる。導入コストはかかるが配送コストを下げるためにこのような機器を導入する方法もある」と解説する。


■物流以外での削減策

 配送コストの増加を他部門の利益拡大策やコスト削減策で補う方法もある。あらゆる部門の無駄や収益拡大余地を洗い直し、細かく改善を図るやり方だ。
 トークロアの伊藤社長は、「仕入れ価格や人件費、販促費については一気に縮めようとするとさまざまな弊害が出る可能性がある。売り上げが下がれば利益を確保する余地が少なくなるし、スタッフを減らすことで他のスタッフの負荷が上がり、離職率が高まるリスクもある。コスト削減は段階的にやった方が良い」と話す。
 システムを入れ替えたり、RPA(ロボットによる自動化技術)を導入することで、人件費を抑える方法もある。
 「テクノロジーで効率化するためには、導入する側のディレクション技術が求められる。スペシャリストになる必要はないが、平均点レベルでテクノロジーについて知っていることが重要だ」(伊藤社長)と話す。

(続きは、「日本ネット経済新聞」8月29日号で)

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記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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