【幹細胞化粧品】 〈業界に波紋〉幹細胞培養液は「単なる培地」?/上清液との違いで「評価機構」がデマ拡散か(2021年7月15日号)

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 「『御社が販売しているのは、幹細胞培養液か、培養上清液か、どっちですか?』などという、よく分からない問い合わせが増えて困っている」─幹細胞化粧品のメーカーの一部から、こうした悲鳴が挙がり始めている。背景には「ヒト幹細胞培養液はまがい物で、ヒト幹細胞培養上清液が本物」といった趣旨のデマ情報が、ネット上などで拡散されていることがあるようだ。本紙の取材により、このほど、こうした情報の発信源の一つが、日本幹細胞化粧品評価機構(所在地三重県)と名乗る任意団体であることが明らかとなった。
 同団体のホームページには7月12日時点で、「マンガで分かる『幹細胞コスメ』の真実!」と題した動画が掲載されている。この動画は、幹細胞コスメについての消費者の誤解を、同機構の代表理事長を務める福森暁医師が解くという形式になっている。
 動画では、「ヒト幹細胞培養液」について、「(幹細胞の)培養に使用された液体ではない」「養分が豊富なだけであくまでもただの培養液」などと表現している。つまり、「培養液」は単なる「幹細胞を育てるのに適した〝培地〟」でしかなく、幹細胞を培養した際に発生する、サイトカインなどの生理活性物質は含まれていないと言いたいようだ。
 一方、「ヒト幹細胞培養上清液」については、「実際に培養に使用して生理活性物質がたくさん凝縮されています」と説明。マンガキャラクターとして登場する福森医師は「幹細胞コスメが欲しいなら必ず『培養上清液』が配合された商品を選びましょう!」とまで言っている。
 こうした動画の中の一連の表現は、著しく消費者の誤解を招くものと言わざるをえない。
 そもそも、「ヒト幹細胞化粧品には、幹細胞そのものは含有されない」というのは、化粧品業界の常識だ。幹細胞が含まれた時点で法律違反になってしまうからだ。その上で、「ヒト幹細胞を培養した後の液」の中から、「ヒト幹細胞」を除去したものを、「ヒト幹細胞培養液」などと呼んで、化粧品素材として活用してきた。
 つまり、化粧品業界では、幹細胞培養後の上澄み液を意味する「ヒト幹細胞培養上清液」という言葉も、「ヒト幹細胞培養液」という言葉も、ほぼ同じ意味で使われてきた経緯があるのだ。幹細胞培養を行っていない「単なる培地」を、「幹細胞培養液化粧品」として販売しているケースは、少なくとも、幹細胞化粧品業界を長く取材してきた記者である筆者が知る限りはない。
 さらに言うと、ヒト幹細胞化粧品素材の、全成分表示時の名称には、「ヒト幹細胞順化培養液」「ヒト脂肪細胞順化培養液」「ヒトサイタイ間葉幹細胞順化培養液」「ヒト角化細胞順化培養液」など、さまざまなバリエーションがあるが、「培養上清液」といった文言を含む表示名称は、現時点では存在しない。「ヒト幹細胞培養上清液配合」などとうたっている、同団体の認定製品についても、配合されている成分の、全成分表示の際の名称は「ヒト脂肪細胞順化培養液」だ。この一事をとっても、同団体が、消費者を誤認・困惑させる表現をしていることは明らかだ。
 なお、日本化粧品工業連合会(事務局東京都)がまとめている「化粧品の成分表示名称リスト」によると、例えば、「ヒト幹細胞順化培養液」の定義は「ヒト幹細胞を数日間培養した後、培養物から取り出した培養液」となっている。「ヒト骨髄幹細胞順化培養液」の定義も、「数日間ヒト骨髄幹細胞を増殖させた後、培養物を除去した培養液」だ。他のヒト幹細胞培養液成分の定義も、ほぼ同様となっている。
 つまり、「単なる培地」を配合した化粧品の全成分表示で、こうした成分名称を表記した場合、定義外の成分ということで、薬機法違反となる。
 医師が代表理事長を務める団体で、この程度のことも分からないということは、ちょっと考えづらいのだが、同団体は、「全成分表示の誤表記という立派な法律違反を犯している企業が多数ある」と主張したいのだろうか。もしそうだとするならば、どういった根拠に基づいての主張なのだろうか。
 以上の点について、同団体に向けて取材の問い合わせを行ったところ、「どの会社が培地を培養液とうたって販売しているといったことは、誹謗中傷になる可能性があり答えられない。そもそも当機構は、幹細胞の良さを伝えたいという思いから立ち上げた団体。濃度などがブラックボックス化している化粧品もあることから、透明化したいと考えている。信頼できる製品を認定することにより、消費者の啓発につなげ、幹細胞コスメの信頼度を高めたい」(事務局スタッフ)という回答が寄せられた。
 前出の動画では、福森医師のマンガキャラクターが、虚偽の表記で幹細胞化粧品を販売する事業者に対して「こんな詐欺みたいな方法で消費者を裏切るなんて私は許せないです!」と憤る場面が登場する。もはや、「マンガ」としか言いようがない。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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