〈訪販・食品宅配大手〉 人材採用が上向き基調に/コロナ禍で応募意欲が活発

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「ヤクルト届けてネット」がYLを後方支援

「ヤクルト届けてネット」がYLを後方支援

業務委託契約を中心とした販売員を抱える大手訪販企業や食品宅配企業では、新型コロナウイルスの影響を境に人材採用の環境が上向きの基調にある。ヤクルト本社は、離職率が大幅に改善したほか、新規採用も進んだことで今年7月に販売員「ヤクルトレディ(YL)」の数が増加に転じた。ダスキンでは、求人のウェブサイトを刷新。ダストコントロールなどの事業において、応募数がリニューアル前の約5倍、採用数は約3倍に増えた。業務委託契約の販売員が多い中で、正社員やパートといった雇用形態に応じた働き方を提供して、応募者の多様なニーズを取り込んでいる。

【ヤクルト本社】 
YL数が7月以降増加

「今年3~4月はYLの退職が増えるのではないかと危惧していた」
ヤクルト本社で宅配事業を統括する松井裕一郎宅配営業部長はこう振り返る。
コロナ禍を受け、YLの働き方が多様化し、離職も大幅に減少した。純第2四半期末となる20年7月以降はYL数が増加に転じ、毎月100人前後のYLが増えているという。10月末の時点で20年3月末のYL数を上回り、10年3月期ぶりに前年を超える可能性が出てきた。中には、コロナ禍で以前に就業していた人が復職するケースも出てきている。
過度な接触を防ぐことを目的に顧客の同意を得た上で、週に1回届けていた頻度を2週間に一度のペースでまとめて届ける仕組みも始めた。手渡しを避けたい顧客に貸し出している、専用の「保冷受け箱」を今期から大幅に増産したという。「こういう時に来てくれて大変ありがたい」といった声も寄せられ、YLのモチベーションアップにつながっているようだ。
今年9月に実施したYLに対するウェブアンケートでは、「満足している」とする回答が全体の6割を占め、前回調査より9ポイント向上した。その理由については「収入が増えたから」との回答が目立った。
収入アップには、高単価の高付加価値商品の投入も後押しした。今年3月からは九州限定だった「ヤクルト400W」を関西や東海エリアにも投入した。首都圏限定だった「ヤクルト1000」も東日本地区に拡大した。こうした高単価な商品が売れたことで、一世帯当たりの購入単価の押し上げにつながった。1カ月の収入が15万円を超える「Sタイプ」と、10万円以上15万円未満の「Aタイプ」の合計がYL全体の過半数となり、前年よりも10%ほどアップしたとしている。
新規顧客獲得にはネットで注文できる「ヤクルト届けてネット」が支えている。9月末までに会員数は11万5000人を超え、9月は新規申込が8000件と単月で過去最高件数を更新した。
約10年前から約60社の販売会社(YL1500人が登録)で先行実施する、YLの正社員化も広げる。21年3月期中には、残り40の販売会社に導入してもらい、選択肢としての「社員型YL」を増やす考えだ。
ヤクルト本社は、21年3月期(20年度)を最終年度とする9カ年の長期計画「ヤクルトビジョン2020」の第3フェーズ(18年―20年)の中で、国内の飲料食品事業における「ヤクルトレディ組織の強化」を盛り込む。「これまで取り組んできたさまざまな施策が成果につながりつつある」(松井氏)と話す。


【ダスキン 訪販グループ(レントオール以外)】 
「ダスキンお仕事ナビ」に刷新

ダスキンは5月11日に、モップなどレンタル商品を一般家庭に提案する「ダストコントロール事業」を中心とした訪販グループの事業(レントオール以外)の求人サイトを「ダスキンお仕事ナビ」として刷新した。刷新前は、「DDuet(ディーデュエット)お仕事ナビ」として運用し、全国の各地域本部で独自に採用ページを持っていたが、採用ページを一元化した。リニューアル後は、他社の求人サイトとも連携して露出が増加。応募数はリニューアル前の約5倍、採用数は約3倍に広がったという。以前のサイトの訪問者はダスキンの仕事を直接検索したり、ダスキンと関係のある人が中心だったが、他媒体との連携により大きく改善した。
求人サイトの刷新は加盟店の負担軽減にもつながった。これまで加盟店が原稿作成などを担っていたが、本部の人材採用センターが設置する専用応募フォームに必要事項を入力してもらう形にしたことで省力化し、最短3日でウェブ公開ができるようになった。加盟店からは、21年3月期まで無料で利用できる点も好評だという。
多様な働き方も訴求している。モップなどのレンタルを行う「ハーティ」と呼ばれる販売員は業務委託契約が基本。時間に拘束されず、自分の都合に合わせて働ける点を募集要項で強調している。加盟店によっては、複数の雇用形態や業務内容を用意することで、応募者の生活スタイルに合わせた採用を行っている。
求人サイトは、販売員のスタッフ証にも明示しているほか、社用車に貼付するマグネットシートを準備したり、領収証の裏側にも記載して認知向上を図っている。


【ダスキン 訪販グループ:役務提供サービス】 
”わがまま転職”を提案

ダスキンは、家事代行サービス「メリーメイド」や、プロ掃除サービス「サービスマスター」の役務サービス全般の採用は19年11月に開始した。採用業務は「ダスキンスタッフバンク」が担う。
役務サービスの求人について、「人気のない業種で採用が難しい」(サービスマスター事業部)と話す。そのため、サイトのテーマを「わがまま転職サイト」に設定。検索条件で「免許がない」「午前中は働けない」といった条件を入力しても、条件に合う職種を選べるようにした。
継続して働いてほしいという思いから、採用2カ月後に「定着お祝い金」として1万円を付与している。
コロナ禍を境に、ビルやホテルなどで清掃業務に従事していた経験者からの応募が増加。「ケアサービスにとっては人が商品。加盟店が喜ぶほど応募者数が増えている」(同)と手応えを感じている。さらに、仮に応募した加盟店と条件が合わなかった場合でも、本部が間に入って近隣で条件の合う加盟店を紹介するという制度も設けたことで、採用率が向上した。

【ワタミ】
「まごころスタッフ」増加

ワタミでは、弁当・総菜宅配事業「ワタミの宅食」の営業兼配送スタッフ「まごころスタッフ」の待遇改善が人数の増加につながっている。20年9月中間期において、販売員「まごころスタッフ」の人数は増加に転じ、前年同期比254人増の7898人となった。
18年4月から販売員への待遇を改善したワタミは、販売員を採用した際、一定数の顧客を本社が事前に用意するか、一定の報酬(数万円)を事前に確保するという選択制度を設けた。販売員が選ぶのではなく、営業所長が販売員の適正に応じて選ぶ仕組みとしている。曽我部恭弘執行役員・宅食事業本部長は「(まごころスタッフ数の)1万人の回復を目指していきたい」と話す。
今年は、埼玉県内から4年ぶりに販売を再開した「ミールキット」を10月26日に関東甲信越に拡大した。「まごころスタッフ」が配送を担っており、歩合給の上乗せにつなげる。
渡邉美樹会長兼グループCEOは、「副業として新たに応募する人も増えてきた。販売員の収入保障制度が成果につながっている」と話す。
コロナ禍で、副業などのギグワーカーやリモートワークなど多様な働き方を求める人は増えている。人材=売り上げになりやすい訪販・食品宅配業界においては好機であり、販売員の定着率の向上が、今後の業績を左右しそうだ。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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