百貨店で多くの実店舗を展開しているアパレル大手がネット通販に活路を見いだしている。ECに完全移行するのではなく、これまで展開してきた実店舗を生かしながら、ネットと実店舗の会員を統合するなど、双方で顧客を囲い込む施策に奔走している。中国の大手ECモール「Tモール」に出店するなど、ECによる海外展開で新たなチャネル開拓を図る動きも昨年から活発化している。
■百貨店に代わる成長戦略に
一般社団法人日本百貨店協会(事務局東京都、大西洋会長)が今年1月に発表した統計によると、16年の全国の百貨店の売上高は前年比2.9%減の5兆9780億円となり、1980年以来36年ぶりに6兆円を割り込んだ。ピーク時(91年)の6割規模に縮小したことになる。
こうした状況下で、百貨店を中心に店舗展開を続けてきたアパレル大手は成長の手段として、ECとネットを通じた海外展開に乗り出している。実店舗が苦戦を強いられる中、各社ともEC売り上げが着実に伸長。全社の収益への貢献度合いも高まってきていることから、さらに成長に弾みをつけたい考えだ。
オンワードホールディングスは昨年4月に発表した中期経営計画で、19年2月期までにグループ全体のEC売上高を16年2月期の約3倍となる360億円に拡大することを明らかにした。
その初年度となった前期、国内外を合計したEC売上高は150億2100万円となり、期初計画の150億円を達成。内訳は国内が前期比22.8%増の139億4000万円、海外が同86.4%増の10億8100万円だった。
国内に比べて規模は小さいながら海外ECは大幅に伸長している。前期は、ブランド「ジョゼフ」を欧州の外部ECモールに出店させて販路を拡大し、EC売上高は前期の約2.4倍に拡大。中国では「Tモール」に出店している店舗に、人気ブランドの「23区」「ローズブリット」を追加している。
国内では昨年4月に会員制度「オンワードメンバーズ」において、直営ECサイト「オンワード・クローゼット」と実店舗を統合し、会員数は統合前の60万人から期末には160万人に達した。
「オンワードメンバーズ」はもともと子会社のオンワード樫山(本社東京都)が保有する会員だけだったが、今年2月に売上高83億9100万円のグループ会社、アイランド(本社東京都)の持つ会員と「オンワードメンバーズ」を統合。徐々にグループ会社の会員統合を進めており、今期は210万人を目指している。
「生活文化企業」を掲げる同社は、アパレルに固執しない商材のEC展開にも注目が集まる。前期は食品ECサイト「オンワード・マルシェ」を開設。全国の営業網を生かして厳選した食品を販売しながら、売り上げ拡大を図っている。
また、商材とチャネルの拡大の一環として、オーガニック化粧品のKOKOBUY(ココバイ、本社東京都)を2月に買収した。「『オンワード・クローゼット』にココバイの化粧品が並ぶかは未定だが、『オンワードメンバーズ』の拡大などグループシナジーの創出に期待している」(広報)としている。
■多言語、多通貨対応に
アダストリアは17年2月期のEC売上高が前期比34.4%増の291億円、全社売り上げに占めるEC比率が同3.5ポイント増の15.0%となった。
出店している「ゾゾタウン」では、クーポンを活用した販促の反響がいいという。全社業績における広告宣伝費率は前期に比べ0.2ポイント増加しているが、そのほとんどがクーポン販促を増加させたことによる。
国内ECではブランドごとに出店する形を取っており、自社通販サイト「.st(ドットエスティ)」においても一つのブランドが加わると「1店舗出店」とカウントしている。
今期は3月に、アパレル、インテリア、雑貨などを取り扱うライフスタイルブランドと位置付けた「LAKOLE(ラコレ)」を立ち上げ、実店舗のほか、自社通販サイト、「ゾゾタウン」でも店舗展開した。「ラコレ」を含め、国内ECは今期中に5店舗を出店する計画だ。
(続きは、「日本流通産業新聞」4月20日号で)
百貨店に出店するアパレル大手のEC戦略/ネットと実店舗で囲い込み/会員統合、海外展開が活発化
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