【国内EC市場予測 <本谷レポートに見る次の一手>】30年頃に成長頭打ちか(2023年3月2日号)

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デジタルコマース総合研究所の本谷知彦代表

デジタルコマース総合研究所の本谷知彦代表

 2030年頃、国内EC市場はピークアウト(頭打ち)する─フランス発のマーケケットプレイス構築SaaSを提供するミラクル(本社東京都、佐藤恭平社長)が今年1月に発表したレポートに書かれたEC市場の予測が、にわかに話題を集めている。執筆したのはデジタルコマース総合研究所の本谷知彦代表だ。本谷氏は前職の大和総研時代に、経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」を14年から7年連続で担当している。長年、EC市場規模を算出してきた本谷氏が予測するのだから、説得力がある。一方で楽天グループ(楽天)は30年頃に、国内EC流通総額を10兆円規模にまで拡大する計画を掲げている。国内EC市場はすでにピークアウトが見えているのか、それともまだまだ成長するのだろうか、分析をまとめた。

■年平均成長率は低下

 デジタルコマース総合研究所の本谷代表は、大和総研を退職後、22年にECに特化したシンクタンクとしてデジタルコマース総合研究所を開設した。
 「EC市場を見続けていて、ずっと感じていることがある。このままだと日本のEC市場は飽和してしまう可能性があるのではないか。具体的には30年頃にピークアウトを迎えるのではないかと危惧している」(本谷代表)と話す。
 ミラクルが発表したレポートの中で、日本のEC市場規模(物販)の推移を紹介している。5年間の年平均成長率(CAGR)を見ると、06―11年が16.91%だったのに対し、11―16年は11.67%、16―21年は10.67%と低下傾向にある。
 「16―21年のCAGRは10.67%だが、コロナ禍の巣ごもり消費の影響を除いた理論値は、8.29%の成長率だとみている。22年の国内EC市場規模(物販)はまだ発表されていないが、私は4~5%の伸びにとどまると予測している。今後は成長率がどんどん落ちていくだろう」(本谷氏)と分析する。
 本谷氏は類似する規模の市場と比較することで、国内EC市場のピークアウト時期を予想している。
 「コンビニ市場は1974年にスタートし、45年後の2019年にピークアウトしている。携帯電話市場は1992年にスタートし、28年後の2020年にピークアウトしている。コンビニ市場は物理的な出店と配送網の構築が伴うため、簡単には伸びない市場だ。そのため、ピークアウトまで45年かかった。携帯電話はバンドワゴン効果といわれる、『周りの人が使っていると自分が使いたくなる』ような効果があるため、普及スピードが早く、その分、ピークアウトまでが早かった。EC市場はコンビニ市場ほど敷居が高いわけではなく、携帯電話のようなバンドワゴン効果はない。そう考えると、ピークアウトまでの年数は28年以上、45年以下ではないか。30~35年くらいがピークアウトまでの年数の一つの目安だとみており、楽天グループが設立した1997年をEC元年とすると、2027年から2032年にピークを迎えるのではないかと予測できる」(同)と話す。


■四つのシナリオ提案

 通販業界においてもEC市場は全体の成長をけん引する存在だ。そのEC市場がピークアウトするとなると、その市場で事業展開する企業の先行きにも暗雲が立ち込める。
 「EC業界関係者にはセンセーショナルな話かもしれない。ただ、この市場展望に気付いている人もいるだろう。気付いていながら見て見ぬふりをしていた人もいるかもしれない。市場予測はあくまで予測だが、状況を直視し、どういう手を打つかが大事だと思う」(同)と話す。
 本谷氏はレポートの中で、国内EC市場が成長を継続するための四つのシナリオも提言している。


■大手モールの成長加速

 一つ目は既存の大手プラットフォーマーがさらに流通総額(GMV)を拡大することだ。現状で国内EC市場の7割以上を大手プラットフォーマーが占めている。その大手プラットフォーマーがさらに拡大することで、国内EC市場の成長を継続するというシナリオだ。
 確かに、楽天は中期経営計画で、国内の年間EC流通総額を22年の5兆6301億円から、30年頃には10兆円規模にまで拡大することを目指している。22年も2桁成長を継続したが、そのペースを崩さず、ますます成長し続ける計画だ。
 楽天以外の大手プラットフォーマーも成長を継続させる姿勢は変わらない。

(続きは、「日本流通産業新聞」3月2日号で)

ミラクルの佐藤恭平代表

ミラクルの佐藤恭平代表

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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