【法改正の影響】 3Dセキュア導入義務化で後払い強化の流れへ(2023年2月9日号)

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む

 経済産業省はこのほど、ECサイトの脆弱(ぜいじゃく)性対策と、クレジットカード決済時の本人認証の導入を義務化する方針を固めた。新たな制度は、原則すべてのEC加盟店に対して、「EMV 3DS(3Dセキュア2.0)」の導入を義務付ける内容だ。
 化粧品や健康食品のリピートEC企業からは、「後払い決済やID決済を強化したい」といった声が聞こえ始めている。新制度の開始により、「クレジットカード決済の顧客のカゴ落ちが増えるのではないか」という懸念が高まっているのだ。一方、決済代行会社からは、「『EMV 3DS』は、全てのユーザーに本人認証を求めるわけではないため、EC全体で後払いに傾くことはない」(DGフィナンシャルテクノロジー)という声もある。


■リスクベース認証で本人確認

 経済産業省は1月20日、24年3月末までに、原則すべてのEC加盟店に対して、「EMV 3DS」の導入を義務化する方針を固めた。サイバー攻撃やフィッシング詐欺が増加しており、クレジットカードの不正利用額が増加傾向にあることが、義務化の方針の背景にあるという。
 「EMV 3DS」は、リスクベース認証やワンタイムパスワードの機能を搭載した、世界基準の本人認証の仕組みだ。VISAやJCBなどの国際カードブランド各社が推奨している。
 「EMV 3DS」では、これまで提供されていた3Dセキュア1.0に比べて、カゴ落ちが発生しづらいといわれている。「EMV 3DS」のリスクベース認証では、カードの利用履歴やカード利用者の端末情報などから、不正利用の可能性があるユーザーにだけ、本人認証の画面を表示する仕組みとなっているからだ。
 そのため、「EMV 3DS」を導入したECサイトを利用したことのある顧客が、同じサイトで同じカードを使って決済しようとした場合に、ワンタイムパスワードが表示される可能性は低い。「EMV 3DS」の動作のもとになる決済情報は、日を追うごとに蓄積されていく。ワンタイムパスワードの表示の精度は日に日に高まっているといえる。


■CVRとLTVのどちらを取るか

 化粧品や健康食品などのリピートECの事業者からは、こうした「EMV 3DS」導入義務化の流れに対して、「導入するとカゴ落ちが増加してCVRが落ちるため、後払い決済に誘導した方がいいかもしれない」という声が多数聞かれるようになっている。
 化粧品やサプリの定期購入の場合、新規顧客は、過去にそのサイトを利用したことがないケースがほとんどだ。リスクベース認証で、どの程度ワンタイムパスワードが表示されるかは、未知数のようだ。
 こうしたリスクから、「新規顧客を後払い決済へ誘導した方がいい」という声が上がるようになっているのだ。一方で、「後払い決済はクレジットカード決済よりも、定期購入の解約率が高まる傾向があり、LTVの低下につながる」と懸念する声も聞かれる。
 サプリや化粧品を扱う、ある中堅ECの役員は、「カゴ落ち増加を覚悟で、『EMV 3DS』を導入してカード決済を訴求するか。LTVの低下を覚悟で、新規顧客獲得を優先して後払いへと誘導するか。両立できないトレードオフの判断になるだろう」と話している。
 別の中堅化粧品ECの役員は、「『EMV 3DS』の導入義務化で、まずはCVRが低下して、それを補うために各社の広告表現が過激になる流れが生まれるのではないか。カートによって使えない、後払い決済やID決済も多い。決済手段の普及を強化してほしい」という声も聞かれた。
 決済代行会社のDGフィナンシャルテクノロジー(本社東京都)は、「『EMV 3DS』がワンタイムパスワードを表示する『チャレンジ率』は10%程度だと聞いている。導入義務化によって、カード以外の決済手段を強化するケースが増える可能性はあるが、EC業界全体でカード決済が大きく減ることはないのではないか」(広報)としている。
 単品リピート通販・D2C企業のコンサルティングを手掛ける売れるネット広告社(本社福岡県)の加藤公一レオ社長は「CVR低下の懸念は確かにあるが、リスクベース認証は、『顧客の95%が認証対象にならない』という説明を聞いたことがある。消費者にとっても、認証があることで安心して購入できるため、そこまでの購入ハードルにならないのではないか」と言う。「むしろ、D2C業界の課題である、不正注文やチャージバック対策になり、メリットになる」とも話している。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ