【<通販企業の再生請負人>扇寿堂 竹尾昌大 社長】社員ゼロで育毛剤通販をV字回復

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竹尾 昌大 社長

竹尾 昌大 社長

 プランセンタ化粧品のR&Y(銀座ステファニー化粧品が14年7月に吸収合併)の売上高を2年間で4倍の約60億円まで拡大させた竹尾昌大氏は現在、扇寿堂グループを率い、通販企業の事業再生に辣腕(らつわん)を振るう。現在は子会社や出資会社など9社の経営に携わっている。16年11月には、育毛剤通販の先駆企業であるT.Sコーポレーションを買収。過酷な競争環境の中、減収に陥った同社をわずか1年で立て直し、売上高は過去最高、利益は1.5倍にV字回復させた。短期間での再生を実現した同社の社員は0人だという。スペシャリストを集め、短期間で勝てる組織を作り出した〝竹尾流〟事業再生の極意を聞いた。

■1年で利益が1.5倍

 ーーーR&Yを売却後、買収した銀座ステファニーの副社長を務め、15年12月に退任した。その後は何をしていたのか。

 自分で立ち上げた扇寿堂で化粧品のブランドを立ち上げたり、通販企業の再生支援を手掛けたりしている。扇寿堂は持ち株会社で事業の運営はしていないが、子会社や出資会社を合わせると9社の経営に携わっている。昨年、T.Sコーポレーションを買収した。育毛剤通販ではパイオニア的な存在だが、類似商品が増え、近年は売り上げを落としていた。育毛剤通販の業界は競争が激化しているため、社員からは買収に反対の声もあったが、厳しい環境でこそ試してみたい構想があり、買収を決めた。買収からちょうど1年が経過し、17年11月期は売上高が前期比20%増、利益が同50%増で着地する見込みだ。初年度としてはまずまず、来期はさらに伸ばす。

 ーーー育毛剤通販は参入企業も多く、厳しい環境だが、どのようにV字回復を実現したのか。

 マーケティングの基本は、「誰に(顧客ターゲット)」「何を(商品)」「どうやって(手法)」だが、今回はまず、「誰が(メンバー)」の部分を最優先に考えた。どのメンバーで、どういった組織で事業を運営するかが、重要であることは言うまでもない。
 T.Sコーポレーションは、社員が1人もいない組織。幹部はフリーランスのスペシャリストを招へいし、オペレーターとして扇寿堂から3人が出向している。7人で運営しているが過半数がグループ外の人間だ。日本でも最近は優秀な人間がどんどん会社を飛び出し、フリーランスになっている。優秀な人間を集め、適材適所に配置することで、圧倒的に勝てる組織が作れる。

■フリーランスを組織化

 ーーーどのように優秀なフリーランスを集めたのか。

 これまで数多くのプロジェクトで多くの人と一緒に仕事をしてきた。多くの優秀な人間が企業を飛び出し、独立している。こうしたフリーランスを取りまとめている。直接つながりがなくても、信用できる人に「こういうことができる人はいない」と尋ねれば紹介してくれる。

 ーーーなぜフリーランスを束ねて事業を展開しようと考えたのか。

 個人で活躍するアフィリエイターと付き合う中でそう思った。彼らはサラリーマンよりも稼いでいるのに、漠然とした不安を感じている。自分の力量を客観的に把握できていないため、もっと対価をもらってもいいはずなのに、自ら過小評価している人も多い。優秀なのに正当な評価を受けていないフリーランスは多い。エンジニアにも、能力は高いが、家族の関係で地方にいるため、大きなプロジェクトに参加できていない人もいる。彼らはもっと社会的に価値を出せるはずだ。
 大企業でも平気で倒産する世の中になって、個人スキルが重要だといわれるようになった。高額所得者の税金負担を上げる話も出ているが、優秀な人ほどフリーランスになるし、その流れはさらに加速する。最初から雇われずに地力を付けたいと考える学生も増えている。能力があり、モチベーションの高い人材を生かすことができれば事業の勝算が高まると考えた。

 ーーーフリーランスで仕事を継続的に獲得していくのは大変だ。

 確かに1人で飯は食えても、新しい仕事を取ることができず、先細りになる人もいる。確定申告や保険などに疎い人も多い。1人で寂しさや不安を感じることもあるだろう。社会に対して付加価値のある仕事ができているのかと自問自答し、悶々とすることもあると思う。すべて自分で経験してきたから分かる。
 このようなフリーランスを緩く組織化し、仕事を提供するだけでなく、刺激をもらえる仲間や先輩と出会える環境を作りたいと思っている。全国にフリーランスが無料で利用できるコワーキングスペースも開設したい。確定申告や保険などは当社の顧問企業が一括して支援することもできる。そういう場所に集まる優秀な人を、適材適所で配置すれば絶対的に勝てるチームができる。
 ガチガチに自前主義でやっている会社は今後、競争力を失うだろう。シリコンバレーの新規事業は大企業で起こるのではなく、社外でフリーランスが立ち上げた事業をグーグルなどが買っている。米国ではすでに始まっているが、日本でもこうしたビジネスのやり方が新しい潮流になるとみている。

■再生ファンドを組成

 ーーー今後の展望は。

 T.Sコーポレーションでは、商品を作り直し、さらなる成長を目指す。新たにEC事業をすべてアウトソースしたいという案件も来ていて、どのメンバーでプロジェクトを組もうか考えている。
 事業再生には資金が必要なので、ファンドを立ち上げる計画もある。コワーキングスペースでフリーランスを支援するだけでなく、就職活動中の学生やインターンのためのメディアを立ち上げて、やる気のある若者を集めたいと考えている。優秀な人やモチベーションの高い人が集まることで、当社は新規事業のリソースを確保できる。彼らにとっても成長のチャンスを得ることができるはずだ。


たけお・まさひろ氏
 81年、鹿児島県生まれ。鹿児島大学在学中に京セラの稲盛和夫名誉会長が創設した稲盛アカデミーで経営を学ぶ。ブックオフコーポレーション創業者の坂本孝氏に認められ、ブックオフ鹿児島やブックオフアドバンスの役員を歴任。化粧品通販のJIMOSなどを経て12年6月、R&Yの社長に就任。13年12月に立ち上げたアドミット(現扇寿堂)で、自社ブランドの立ち上げや企業再生事業を展開。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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