【〈連鎖販売取引に携わる事業者の必読の書 「Q&A連鎖販売取引の法律実務」を上梓〉千原曜弁護士】NBは日本社会に根付いているビジネスだ

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「Q&A 連鎖販売取引の法律実務」(中央経済社発行、税別2800円)

「Q&A 連鎖販売取引の法律実務」(中央経済社発行、税別2800円)

 特定商取引法のエキスパートとして知られ、数多くの訪販・ネットワークビジネス(NB)企業の顧問を務める千原曜弁護士がこのほど、著書「Q&A 連鎖販売取引の法律実務」(中央経済社発行、税別2800円)をまとめ出版した。本紙で約10年にわたって連載している「特商法のエキスパート 千原弁護士の法律Q&A」のコーナーで紹介した内容をベースに、現在の法規制や、業界の状況変化などを踏まえ、大幅な加筆修正を行っている。連鎖販売取引に携わる事業者にとっては、必読の書といえそうだ。出版を記念し、千原曜弁護士に特別インタビューを行った。

■10年前に比べると取り巻く環境厳しく

 ─本紙では約10年にわたって連載をしていただいているが、この10年のNB業界の変化をどのようにみているか。

 千原 10年前に比べると、NB業界を取り巻く環境は、非常に厳しいものになってきていると感じる。私の知る限り、NB主宰会社が処分や指導を受けるケースも増えている。消費者庁も、特に若者をターゲットにしたNBに対する警戒感を強めており、NB各社にとって、コンプライアンスの重要度は桁違いに高まっているといえる。
 一方で、悪質性の極めて高いディストリビューターが、以前に比べると少なくなっていることも感じる。法律を守る気などそもそもなくて、告知義務など何のそので、密室に消費者を連れ込むといった悪質なディストリビューターが以前はいたが、今は少なくなっているのではないか。

 ─会員の悪質な勧誘のうわさがネットで拡散しやすくなったことも影響しているのか。

 千原 それもあるだろう。一方で、特商法の順守の意識が、完全ではないものの、業界に広がってきているのではないかとも思う。

 ─業界全体の健全化が進んでいる?

 千原 健全化は緩やかに進んでいる。ただ、SNSの悪用など、NB業界には新たな問題も出てきている。NB組織で、その会社とは無関係の仮想通貨や投資ビジネスを広めようとする会員の話もよく耳にするようになった。

 ─NB企業から受ける相談の中で、最近特に増えているものは。

 千原 やはり、問題会員の処遇など、会員管理全般に関する相談が引き続き多い。問題会員の中には、会社に名前を明かすと入会させてもらえないので、別の会員の名義で登録し密かに活動するケースもあるようだ。

 ─NB主宰会社の処分事例をみると、一部の会員の暴走が、処分につながっているケースも少なからずあるようだ。

 千原 やはりNB主宰会社としては、「営業力はあるけれど法律を守らない」という会員を、しっかりと排除していくことが重要なのではないか。


■タイムリーな問題、役立つ内容心掛け

 ─本紙の連載を毎回執筆する上で心掛けている点は。

 千原 なるべくタイムリーな問題を扱いたいというのは常に考えている。各社の経営者や法務担当者にとって役立つ内容にすることを心掛けており、法改正や、行政の新たな動きといったこともできるだけ早く取り上げるようにしている。
 連載の中では、特商法だけでなく、薬機法、景品表示法などの相談も扱っており、裁判実務や行政対応に関する相談も紹介している。今回の著書でもNB企業において日常的に問題となってくるような法律事項をすべて扱っている。

 ─連載の中で反響が大きかった内容は。

 千原 顧問先から質問を繰り返しいただくのは、悪質なクーリング・オフへの対処の問題だ。全部商品を使いきってから返金を求めてくるケースもある。それと、悪質な消費者・クレーマーにどう対処すべきかという点についてもよく相談を受ける。

 ─今回出版した著書では、一言コメントなどを加筆しているが、加筆にあたって心掛けた点は。

 千原 新聞で掲載したときからは時間的な経過があるため、時代に合わせて加筆した点もある。また、連載執筆当時は書けなかったことや、書き足りなかったことなども加筆している。

 ─今回の著書を誰に読んでもらいたいか。

 千原 NB主宰会社の経営者や法務担当者、それからNBを生業にしているようなトップディストリビューターにも読んでもらいたい。トップディストリビューターは、いわば会社の共同経営者のようなもの。コンプライアンスの重要性を、しっかりと認識してもらいたい。


■イメージ改善へ、業界全体で取り組む

 ─今後のNB業界について、どうなっていくべきだと考えているか。

 千原 望ましいという意味では、誤解されやすい業界だけに、イメージを改善していければよいと考えている。イメージの改善には、(一社)全国直販流通協会のような業界団体の役割も大きいし、NB業界全体で取り組んでいくべきだろう。
 私も、NB企業の会員が集まる会合などに講師などとして招かれるケースが少なからずあるが、見ていると、NBは女性の参加も多く、セミナーの雰囲気も楽しそうだ。友達のネットワークが築けて、ちゃんとやれば収入ももらえる。大手企業が大量の広告宣伝費を投じるかわりに、NB会社は会員に還元し、よい商品を提供している。こんなビジネスが世の中では良くみられていないということがとても残念だと思っている。

 ─業界のイメージを改善する具体的な方策はあるか。

 千原 やはりNB業界が地道にキャンペーンをやっていくしかないのではないか。
 行政は悪質なビジネスも健全なNBも、「マルチビジネス」と一緒くたにして「悪いもの」と決めつけている節がある。こうしたことには、積極的に抗議をしていってもよいのではないか。NBは日本社会に根付いているまっとうなビジネスだということを、より多くの人に理解してもらいたい。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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