【エスプリライン 大谷登 社長】〈「スピードラーニング」の開発者〉/英語への憧れ、通販との出会いが人生変えた/チャンスがある会社、そして地域貢献を

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大谷登社長

大谷登社長

英語教材「スピードラーニング」を通販展開するエスプリライン(本社埼玉県)のテレビCMは、多くの人が目にしたことがあり、印象に残るものだろう。同社の大谷登社長は84年に旧社名のクリエイティブアイを設立し、89年から「スピードラーニング」の販売を開始。もともと通販のコピーライターだった大谷社長は69歳となった現在も広告制作に携わり続けている。通販に興味を持った経緯からエスプリラインの今後の展望までを語ってもらった。

〈胸を張って売れる商品を〉

 学歴もなく、貧しい家に育った。ノンブランドの人間だという劣等感があった─現在約300人の社員を抱え、ユーモアな性格で社員からも慕われる大谷社長から出たのは意外な言葉だった。両親ともに若いころから苦労をしており、社長自身も高校中退というレッテルから希望する企業に入社できず劣等感を否めなかったという。しかし、英語への憧れと通販との出会いが社長の人生を変えた。通販コンサルタント会社や米国の商品を販売する通販会社の経営を経て、エスプリラインの設立と「聞き流すだけ」という印象的な英語教材を販売するまでに至った。

 以前、旅行会社の営業マンをしていました。旅行通販が始まったころ、全国紙に、ある旅行会社が広告をたくさん出稿しているのを見て、こんなに広告費を使って採算ベースが合うのかと疑問に思っていました。新聞の縮刷版で過去3年分の広告をチェックしたところ、相当な広告費を使っていること、そして航空会社の友人に聞くと、予想以上に日本人が海外旅行に行っていることが分かりました。
 そこから、NHKの外国語講座テキストなどに広告を出稿して海外研修旅行の販売を始めました。子どものころから広告が好きだった私は、20歳のころ、通販の最初のコピーライターといわれ、「広告の父」としても評価されているデイヴィッド・オグルヴィの著書「ある広告人の告白」を夢中になって読んでいました。「消費者はばかではない。消費者を尊敬しなさい」というフレーズにすごく感動して、広告の勉強をしたことが、このころに少し生きたと思います。
 最初は「通販」であるという認識はありませんでした。自分が行っているのは通販だと気付いたとき、もっと学びたいと思い、通販先進国の米国に行こうと思いました。しかし、そのための資金はありません。国内の通販会社を米国の通販会社視察に連れて行き、通販を勉強する旅行を企画しました。
 30歳で通販コンサルタントとして独立しましたが、食べられなかったですね。借金は増えていくばかり。しかし、そのときに”逃げないで誠心誠意関わろう”という発想になりました。
 結局は会社を畳んだのですが、ある会社からコピーライターを探していると依頼を受け、自分でコピーを書いたところ大成功。その後、さまざまな通販会社のコピーを引き受けました。
 ようやく仕事がたくさん入ってくるようになりましたが、このタイミングで憧れの米国に行きました。米国の通販会社を勉強するというより、リアリティーを求めていました。昔から米国は手紙文化が強く、毎日DMが届き、地下鉄の広告を見ても日本と全く違う。まさにダイレクト・マーケティングでした。コピーライターや広告制作者はレスポンスが得られないと仕事にならない。日本のようにイメージ広告ではないのです。テストをして結果が出る、つまり「本番=テスト」なので、とても面白かった。
 84年にエスプリラインの前身であるクリエイティブアイを設立し、米国のアイデア商品や香港から仕入れた油絵の似顔絵などの通販を手掛けました。特に売れたのが「サブリミナルテープ」という商品です。潜在意識を刺激するために、メッセージを繰り返し流すカセットテープで、年間7億~8億円の売り上げがありました。しかし、取り扱うには精神科医などを常駐させておく必要がある商品だと思い、良心に従って販売をやめました。
 何だか分からない商品をコピーライティングの力だけで売ろうとするのは違う、誰に対しても胸を張って売れるものを売ろうと考え、英語教材を作りました。大学教授でもなければ学歴もない私が教材を作るとは、自分自身思ってもみませんでした。しかし、「誰も作らないのなら自分で作ろう」─そう思ったのが37~38歳のころでした。
 英語を何度も何度も聞いて、感覚をつかんでいく。語学というのは感性が大事です。それなのに、日本人は初めから単語を覚えなければいけないと思い込んでしまう。記憶した英会話はそのシーンでは使えても、ほかで応用できません。「スピードラーニング」は聞くことから始めて分かる感覚や感性を大事にした教材です。当時、自分ではそう思っていませんでしたが、これは英語習得の革命でした。
 私自身、高校中退だったので、当時は英語が話せても大企業にはなかなか入れませんでした。それ以前に私の両親は学歴がなく、幼少期や若いころは苦労が多かったことをよく聞いていました。「お金がなければ幸せになれない」「学歴がなければ認められない」という、間違った考えを受け継いでいました。いい大学に行かなければいけないと思って高校受験をしましたが、落ちたときは最初の試練でした。入学した高校も中退して予備校に通いましたが、大検を受けることで息切れしてしまいました。
 そして「誰でも入社のチャンスがある会社があってもいいのではないか」と思いました。もちろん通販にも興味があったので、その二つの思いを一つにしてエスプリラインを設立しました。
 将来的には「どんな人でも働ける」というコンセプトは変わらないエスプリラインを、世界中に展開したいと考えています。

続きは「日本流通産業新聞」1月1日号で)

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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