25年の食品通販・食品宅配業界の最新トレンドと課題、各社の取り組みとは。本紙は主要な企業への取材をもとに、ランキングやインタビュー、分析記事で特集をまとめた。食品通販では、ジュピターショップチャンネル、ハルメク、イトーヨーカ堂などにインタビューを実施。食品宅配では、売上高ランキングとともに、SL Creationsやオイシックス・ラ・大地(大地を守る会)などにインタビューを行った。
■【食品通販】付加価値磨いて差別化/原材料高騰が業績を直撃
食品通販企業の多くは、昨今の原材料高騰が業績を直撃している。コロナ禍の収束で、消費者は店舗で買い物し、外食の機会が増えている。顧客を思うように獲得できなかった企業は苦戦が続く。ワコールは、取り寄せグルメのECサイトを今年3月に終了すると発表するなど、新規参入した食品ECは見直しを迫られている。
原材料が高騰しても、高騰分を全て販売価格に転嫁することは難しい。値上げや光熱費の負担増で、消費者の財布の紐はさらに固くなっているためだ。安売り合戦をしていては、堅実な経営はおぼつかない。見合う利益を確保できる値段設定で販売するために、付加価値の高い顧客体験の提供が重視されている。
ショッピング専門チャンネル「ショップチャンネル」を放送するジュピターショップチャンネルは、有名シェフと共同開発した商品の販売が好調だった。能登半島の被災地を支援する企画でも、北陸地方の名産品を紹介すると、売れ行きが良かったという。
女性誌で最も発行部数が多い「ハルメク」を発行するハルメクでは「冷凍セレクトのよりどり3品」など、セット商品をカタログなどで訴求。好きな冷凍食品を少量で3種類選べる企画が顧客から好評だった。物販ビジネスユニット カテゴリーマネジメント本部 食品マネジメント本部 食品マネジメント課の橋本幸恵課長は「これぞまさに、高くても良いものを買いたいという傾向を表している」と手応えを得ている。
安売りの商品を販売するのではなく、いかに付加価値を提供できるのか。商品の見せ方、企画の実施内容などを磨き上げることこそがいっそう重要になりそうだ。
■【ネットスーパー】鮮度、スピード高めサービス磨く/新たな施策など動き活発化
ネットスーパーにも新たな動きが出てきた。
イオングループのイオンネクスト(本社千葉県)では、23年7月から開始した首都圏向けオンラインマーケット事業「Green Beans(グリーンビーンズ)」の出足が順調だ。センター型のネットスーパーが弱点としてきた生鮮品の品質を高める施策が顧客に浸透している。
届けてから1週間、鮮度を保証する「鮮度+(プラス)」が人気を集め、配送エリアの拡大とともに、会員数を初年度の2倍となる40万人にしていく計画だ。
イトーヨーカ堂もネットスーパーを刷新した。2月14日にクイックコマースを手掛けるONIGO(本社東京都)と共同で開始したネットスーパーサービスでは、店舗から出荷した商品を通常配送で最短70分、優先配達オプション(手数料220円)を付ければ最短40分で届ける。
「今後検討していく医薬品も、今回の仕組みだからこそ(ネットスーパーの仕組みで配送)できる」(イトーヨーカ堂・望月洋志氏)とサービスの拡充に期待感を示す。
■【食品宅配】生鮮品・ミールキット活性/時短ニーズや付加価値を訴求
共働き世帯の時短ニーズに対応したサービスで人気を高めたミールキットだが、販売会社が増えたことで競争が激しくなり、全体の活性化には至っていないのが現状だ。業績が前年割れした企業が目立つほか、原材料の高騰で食材の仕入れを見直して利益確保を進める動きもある。
今年の需要について、ヨシケイのFCを手掛けるフードサポート四国(本社愛媛県)では、「25年も物価高騰の傾向は続く見込みで、ミールキットの利用傾向も緩やかに低下する」(広報)と予測。その上で「品質低下につながらないよう自助努力を行い、顧客離反防止に努める」。
生鮮品の食品宅配企業では、食品スーパーの店頭との価格差が縮まっていることを追い風に、新規会員が増えている。
オイシックス・ラ・大地の食品宅配ブランド「らでぃっしゅぼーや」は、規格外野菜を中心とした「おためしセット」の25年1月の販売が前年の175%増となり、入会者数も同147%増だった。いわゆる「令和のコメ騒動」をきっかけに、コメの定期便のほか、青果類が定期的に届くサブスクサービスも人気を高めている。
生協は若年層との接点を確保しようと動画やSNSに積極的だ。
日本生活協同組合連合会(本部東京都)は25年度の事業方針の中で、新規組合員獲得の取り組みを再構築して、減収している宅配事業のてこ入れに乗り出すとした。組合員の価値体験が高まるDXを推進し、動画やSNSを活用し、子育て層だけでなく単身世帯を含めた若年層の開拓を急ぐ。コープデリ生活協同組合連合会は、インフルエンサーに食材を提供した動画コンテンツからの誘導にもチャレンジしている。パルシステム生活協同組合連合会は、ウェブ限定のミールキット「3日分の時短ごはんセット」が9割を超えるリピート率となっている。
■【シニア向け宅配】75歳超の人口増で拡大/「2025年問題」控え、市場活性化
今年、第一次ベビーブームの団塊の世代全員が75歳の後期高齢者になるいわゆる「2025年問題」を控え、シニア向け宅配市場が一層拡大しそうだ。
弁当や総菜を届けると同時に、見守り活動をサービスとして付加する企業が多く、遠方で暮らす家族からの需要も高まりそうだ。
食事管理が必要な人に向けた調理済み宅配弁当に新規参入したワタミは、栃木県宇都宮市に冷凍弁当の第2工場を開設し、4月1日の稼働を目指す。この第2工場が稼働すると100%内製化が実現し、通販を通じて、シニア以外の市場も視野に入れる。
■BtoE市場が再び活性化か
離職防止や健康経営の観点から、オフィスで働く従業員向けに低価格で総菜などを提供するBtoE(従業員向け置き型社食サービス)が再び注目を集める。
BtoE市場は2014年頃から本格化。OKAN(おかん、本社東京都)やKOMPEITO(本社東京都)などが先行しながら、SL Creations(エスエル・クリエーションズ、本社東京都)は17年に「Office Premium Frozen(オフィス・プレミアム・フローズン、OPF)」を開始し、現在までに約2000件の企業に導入している。
タニタ(本社東京都)も今年2月に「タニタカフェatOFFICE」を開始して新規参入した。大阪ガスは、23年9月に開始した総菜ECで、帰宅時に従業員が総菜を持ち帰りできるサービスの導入も計画する。
従業員の福利厚生を充実させ、離職防止につなげたいと考える企業のニーズを取り込んでいく。
【食品通販・食品宅配 最新動向分析】 物価高・人手不足が成長の壁に/安売りせず付加価値高める動き(2025年2月27日号)
記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。


