【通信教育のAI活用】 保護者の不安払しょくが鍵に/個別指導の最適化を図る(2024年4月11日号)

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 通信教育でのAI活用が急増している。通信教育各社では、長年蓄積したノウハウを活用してAIを運用。個人の能力に合わせた最適な学習方法の提供などで、成果を上げているようだ。一方で保護者からは、「AI教育によって、子どもが自分で考えなくなるのでは」といった不安の声が上がっているという。ベネッセコーポレーション(本社岡山県)では、そうした保護者の不安を払しょくできるよう、AIの再学習機能を停止。「読書感想文を書いて」といった目的外の利用を制限するなどして、安心・安全を打ち出している。リクルートでは、生成AI活用において、「人の介在を必須にする」といったことを盛り込んだ適用ガイドラインを設けているという。AI活用においては、著作権侵害やハルシネーション(※参照)の問題も生じる可能性がある。こうした問題へのケアを含め、保護者の不安を払しょくできるかが、AI活用を通信教育に浸透させる上で鍵になっていきそうだ。

■蓄積データでの個別指導を

 通信教育事業を長年展開していた企業は、膨大なデータを蓄積しているケースが多い。こうした膨大なデータとAIを掛け合わせれば、最適な学習方法を提供できるようになる可能性がある。
 タブレットを活用した通信教育「スマイルゼミ」を提供するジャストシステムでも、「AIを活用すれば、教師の経験や勘に頼らず、子どもの学力把握や指導ができる。そのため、指導を最適化できることは大きい」(経営企画室・西井恵子氏)と話す。
 スマイルゼミの小学生コース「コーチング」では、一人一人の「学習状況」「得意・不得意」「性格」「特性」などをAIが分析する。「全国で成績の良い子どもの学習パターン」などの分析も行っているという。
 こうした分析結果に基づき、苦手対策の教材をレコメンドしたり、オーダーメードの教材を提案したりしているという。
 一方、「AIより、人の方が得意な分野もまだまだ多い」(同)と話す。「取り組むべき教材の量によって、学習の状況は変わる。子どものモチベーションの維持・向上のバランスの取り方などは、人の方が得意だ」(同)とも話す。
 「スタディサプリ」を提供するリクルート(本社東京都)では、「スタディサプリ」「スタディサプリEnglish」の演習問題や例文の作成などのコンテンツ作成に、生成AIを活用しているという。
 高校生向けの「スタディサプリ」には、AIを活用した「アダプティブ学習機能」を搭載している。生徒ごとの習熟度に合わせAIが選んだ、次に取り組むべき最適なコンテンツを「おすすめ講義」として表示しているという。
 「おすすめ講義」は生徒ごとに異なり、個人ごとで最適な学習が可能になるとしている。リクルートでは、「生成AIは、ユーザーの機会拡大、最適な学習体験を提供するために有効な技術だ。一方、社会では、さまざまな負の議論も進行中だと認識している。活用に当たり、人権侵害・不当な差別の助長、多様性の排除といった問題が起こらないよう配慮しながら、慎重にサービスの検討を進めている」(コーポレートコミュニケーション推進室・鈴木友恵氏)と話す。
 ベネッセコーポレーションでは23年4月から、社内での生成AI活用を開始した。23年7月には、通信教育事業にも取り入れ、「夏休みの自由研究を手助けする生成AIサービス」の提供を行ったという。
 ベネッセホールディングスの広報を務める萩澤理緒氏は「答えを与えるのではなく、ヒントを与える設計にした。AIを初めて使う人がほとんどなので、リテラシーなど使い方の教育から入るようにした。『AIの使い方』を含めた学習コンテンツとなっている」と話す。
 同社では24年3月、小学4~6年生と中学生を対象に、「チャレンジAI学習コーチ」の提供を開始した。

(続きは、「日本流通産業新聞」4月11日号で)

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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