【法改正の波紋】 「テレビ通販撤退も増える」/政省令案の閣議決定に業界反発(2023年2月9日号)

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む

 政府は1月27日、「電話勧誘販売」に該当する要件を拡大する旨を盛り込んだ、特定商取引法の政省令の改正案について、概ね原案通りの内容で閣議決定を行った。23年6月1日から施行される。消費者庁によると、健康食品や化粧品の定期通販で、電話でお試し商品の注文をしてきた顧客に対して、広告に記載していないにもかかわらず、本商品の定期購入へと引き上げる提案をした場合、電話勧誘販売に該当するとしている。業界関係者からは、「テレビ通販からの撤退が増えるのでは」といった声も聞こえてくる。


■クーリング・オフの対象に

 改正特商法の政省令で新たに、電話勧誘販売の対象範囲を拡大する。例えば、ウェブやテレビ・ラジオ広告、新聞広告などを見て電話をかけてきた顧客に対して、クロスセルやアップセルを行う行為が「電話勧誘販売」に該当することになると規定している。
 「電話勧誘販売」の場合、書面交付義務や、再勧誘の禁止規定など、「通信販売」にはない義務・禁止行為が多数規定されている。クーリング・オフを受け付ける必要もある。違反すれば、行政処分や刑事罰の対象となる。
 例えば、テレビショッピングを見て電話して来た顧客に対して、別の商品を販売するクロスセルを行い、電話勧誘販売の書面を交付しなかった場合には、「6月以下の懲役又は100万円以下の罰金(併科あり)が科せられる」ことになり、逮捕される可能性すらある。業務停止命令などの行政処分の対象にもなる。見せしめの処分・逮捕などが頻発する懸念もある。


■「2個セット」は対象外か

 消費者庁では、「例えば、化粧品のお試し商品をウェブやインフォマーシャル、新聞で広告する際に、『化粧品の定期購入もおすすめする』旨のことが書かれていないにもかかわらず、電話で定期への引き上げを提案した場合、電話勧誘販売に当たる」(取引対策課)という見解を示している。
 ただ、消費者庁は、例えば、1個の商品の注文で電話してきた顧客に対して、2個セットの商品をクロスセルした場合は、おそらく電話勧誘販売には当たらないとしている。
 どんな事例が電話勧誘販売に当たるかについて、消費者庁は、「政省令のガイドラインを策定する予定はない」(同)としている。
 事業者から消費者に対するアウトバウンドコールによるクロスセルやアップセルの提案は、これまでも電話勧誘販売として規定されていた。
 消費者庁では「お試し商品を購入した消費者に対して、事業者から電話をかけて、定期購入の契約を薦める場合は、これまで通り電話勧誘販売に当たる。改めて認識してほしい」とも話している。


■業界からは怒りの声も

 公益社団法人日本通信販売協会(JADMA)は、「まっとうな事業者の事業範囲を狭める規制を、検討会の審議なく決めるのは、やり方が汚い」と反発している。「広告掲載商品以外であっても、商品の使用に密接に関連している商品については、クロスセルしても不意打ち性はない。健全な事業者のコストが増加し、不利益となる」とも話している。
 (一社)日本EC協会(事務局東京都)は、「テレビを主体に展開している通販会社は、撤退するケースも増えるのではないか」(福島亮代表理事)とコメントしている。
 定期通販に詳しい、東京神谷町綜合法律事務所の成眞海(せい・しんかい)弁護士は、「消費者庁の逐条解説は、電話勧誘販売のクロスセルについて、もともとの広告と全く関連性がないことが明らかなケースに限られるように読める。定期購入へのアップセルが問題だという認識は分かるが、不意打ち的な規制にならないよう、ガイドラインを整備すべきではないか」と話している。
 薬事法広告研究所の稲留万希子氏は、「おそらくほぼすべての通販企業は、コールセンターのトークスクリプトの変更や社内処理の変更をしなければならないだろう。法施行の6月まで期間は短い」とコメントを寄せた。「消費者に優しすぎ、企業の負担が大きすぎる法改正だ」とも話している。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ