【弁護士に聞く! 注目の最新判例】(東京神谷町綜合法律事務所・成眞海弁護士)/判決のポイントは「広告全体の印象」(2021年10月21日号)

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む

 NPO消費者被害防止ネットワーク東海(Cネット、本部愛知県)が、フルーツ青汁のファビウス(旧社名メディアハーツ、本社東京都)を相手取り、広告差し止め請求訴訟を提起していた件で、名古屋高等裁判所は9月29日、原告であるCネット側の請求を棄却する判決を言い渡した。名古屋地裁での一審に引き続き高裁も、フルーツ青汁の定期購入の商品ページの広告表示について、「(景品表示法上の)有利誤認に当たらない」という判断を示した。名古屋地裁の判決について、景表法に詳しい、東京神谷町綜合法律事務所の成眞海弁護士は、「判決のポイントは、『有利誤認表示』であるかどうかについて『広告全体から判断されるべき』とした点にある」と話している。成氏に話を聞いた。

■「初回のみ安価」は経済活動の自由

 ─今回の判決のポイントは。
 ポイントは、「購入回数の縛りがある定期購入で初回金額のみを安価に見えるようにしていたとしても、広告全体から見て契約内容の説明がしっかりとなされていれば、有利誤認表示にはならない」と判断した点にある。
 Cネット側は、「購入回数の縛りがあるのに、初回金額のみを安価にすることに必要性、合理性がない」という主張をしていた。
 ただ、仮にそのような必要性や合理性がなかったからといって、直ちに有利誤認表示だという判断にはつながらない。
 「消費者へのインパクトを強めるために、初回金額のみを安価にする」ということも、事業者側の経済活動の自由の範囲内というべきだと思われる。
 結局のところ、広告全体をみて、消費者が「1回のみの購入」か「購入回数の縛りがない定期購入」かの誤認を招く可能性があるかを、判断する必要がある。今回の判決は、その点を指摘している。
 その上で、今回の広告表示では、「2回目以降の価格が異なる」ことや、「購入回数の縛りがある」ことについて、繰り返し説明がなされていたとして、「有利誤認表示ではない」との判断を示している。


■行政の過度な干渉に歯止め

 ─名古屋高裁の判決が業界に与える影響は。
 これまで、特に適格消費者団体や国民生活センターは、定期購入被害の軽減に力を入れるあまり、事業者の広告表示について過度な干渉を行ってきた印象がある。
 定期購入被害の軽減は重要だが、それを「有利誤認表示」という規制を用いて行おうとすることには、かなり無理が生じているように思う。
 今回のファビウスの広告表示も、全体を見れば、「広告が、消費者を著しく誤認させる」と考えるのは少し無理がある。
 裁判所の判断は、そのような、行政も含めた、「行き過ぎた有利誤認表示の判断」に歯止めをかけるという意味で、意義がある判断だったと考える。
 無理に有利誤認表示に当てはめて規制しようとすれば、事業者にとっての予測可能性が失われかねない。規制や処分を受けた事業者にとっては、不意打ちとなってしまうこともある。それは事業者側の反感も招くだろうし、事業活動の委縮にもつながる。「規制や処分を受けるかどうかは運次第」という考えにつながりかねない。
 個人的には、定期購入は、有利誤認表示と判断されるに至らない広告表現であっても、一定数の消費者が誤認をする恐れがそもそもある取引形態であると捉えている。
 今年成立した、特商法の改正でも、具体的な定期購入の規制が導入された。今後、ガイドラインも策定される予定となっているが、事業者にとって予測可能性のある形で規制の具体的内容を明確化することが望まれる。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

Page Topへ