《民法改正変わる代理店契約》

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 6月2日、民法を約120年ぶりに大きく改正する法律が公布された。20年6月までに施行される予定。今回の改正では、時効や約款、保証人など、「契約」に関わるルールが改められた。訪販業界と深く関わる代理店契約にも、民法改正の影響は及ぶ。今回の民法改正の重要な目的の一つである「保証人保護」が原因で、代理店募集時に必要となる新たな手続きが増える可能性があると考えられる。


■個人保証人の保護を義務付け

 改正民法では、「保証人保護」が重要な目的の一つとして掲げられている。保護の対象となるのは、事業用の債務を個人が保証するケースだ。
 例えば、企業が資金を借り入れる時に、その企業の代表者が保証人になる場合が挙げられる。これまでは企業が借り入れた資金を返済できない場合、その代表者が保証人として借金を背負うおそれがあった。今後は「極度額(※)」により保証額を制限することで、個人が法人の借金を全額背負うケースは防止される。
 また、保証人が保証する債務者・債権者から、情報提供を受けることも義務付けられる。「迷惑はかけない」と頼まれて保証人を引き受けたが、実態は返済が難しかった、というような事態を防止する施策だ。契約締結時に、債務者から保証人に財産や債務の情報を伝える必要があるほか、債務の履行状況について債権者から保証人に伝えることも義務付けられる。
 保証人保護の中でも、特に訪販業界に影響を与えると予想されるのが「公正証書」の義務付けだ。代理店募集に伴い保証人を求める場合、代理店募集企業は「公正証書」を作成して保証人と交わす義務が今後は発生することになる。

■「公正証書」が不可欠に

 代理店募集企業が公正証書を交わすためには代理店募集企業と保証人の双方が立ち会って手続きをすることなどが必要となるため、業務量が大幅に増えるおそれがある。
 「公正証書」とは、法務大臣が「公証人」として任命した弁護士等によって作成される公的な文書だ。全国にある「公証役場」で作成を受け付けている。
 代理店契約の場合、公正証書には、代理店契約の内容と、損害賠償など金銭的な債務を保証する旨を記すことになる。代理店との間で交わす契約書と、内容は基本的に変わらず、基となる代理店契約の書面もしくはデータを公証役場に渡せば作成を依頼できる。受け取った契約書を基に、公証人が改めて公正証書を作成する。
 公正証書を取り交わすためには、契約する二者が公証役場で立ち会う必要がある。公証役場そのものは、全国どこの公証役場であっても問題ない。代理店募集企業と保証人が予定を合わせて、公証役場を訪問する時間的コストが問題となる。
 「公正証書は元の契約書の写しを流用でき、公証役場での手続きも30分程度だ。しかし、公証人の前で読み上げなければならず、その手続きが問題となる」(丸の内ソレイユ・中里妃沙子所長)と懸念する。「業界的にどうやって簡便化するかが課題となってくるだろう」(同)と話している。
 ただし、「公正証書が不要になる特例もある」(同)と言う。具体的には、法人が代理店になり、その法人の役員が保証人になるケースなどが挙げられる。
 個人が代理店になる場合も、保証人が代理店の共同事業者であったり、配偶者であったりする場合は公正証書が不要になるという。例えば、個人が化粧品の代理店になる際に、代理店の夫を保証人にすれば、面倒な手続きを避けることができる。
 「公証役場の手続きは、役場によって異なることがある。まだ改正法が公布されたばかりで、実務がどう変わるか決まっていない点も多い」(同)と言う。
 改正民法が施行されるのは、公布から「遅くとも3年以内」であり、2020年が期限だ。保証人に関わる煩雑な手続きが義務付けられるのは数年後になる見通しだが、実務に大きく関わる以上、今から関心を持っておく必要があるだろう。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

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