【EC売り方研究所】小規模事業者のリアル展開 /オフィス改装で奏功するケースも

  • 定期購読する
  • 業界データ購入
  • デジタル版で読む

大手~中堅EC事業者のオムニチャネル展開が注目を集めているが、小規模EC事業者の間でも、リアル展開に着手するケースが増えてきている。オーダーメードTシャツのECサイト「tmix(ティーミックス)」を手掛けるspice life(スパイスライフ、本社東京都、吉川保男社長)は、自社オフィスの一角をショールーム化したことが成果につながっているという。ワイシャツECサイト「ozie(オジエ)」を運営する柳田織物(本社東京都、柳田敏正社長)も同様に、自社オフィス内にショールームを開設、商品購入の増加につながっているとしている。イベントスペースを安価に借りることができるサービスなども登場しており、小規模なEC事業者でもリアル展開を行いやすくなってきているようだ。

数カ月で来場者100人達成
 スパイスライフは今年3月、リアル展開に着手した。同社は都内・渋谷に構えるオフィスの応接・ミーティングスペースを改装し、「tmixショールーム」をオープンした。ショールームには、16種のオーダーメードTシャツのサンプルを展示。試着もできるようにしている。利用は、1時間1組限定の完全予約制となっている。6月中旬にはショールームの利用者数が100人を超えた。
 同社ではショールームの開設について、「ユーザーの声を直接聞けるため、顧客との関係を強化することができる」(吉川社長)と話しており、メリットを実感しているようだ。「ECサイトでは、完全オーダーメードによる注文を受け付けるため、『注文の仕方が分からない』といった問題が起こりやすい。そうしたECサイトのユーザビリティーについて、直接指摘してもらえる点もメリット」(同)と話す。「Tシャツの生地や色・首周りの形などについての具体的な要望も多い」(同)と言い、「今後の商品展開を検討する上でも役立っている」としている。
 吉川社長によるとショールームの利用者には「思ったよりも高い年齢層の方々が多い」と言う。「当初は20~30代の方が沢山来場すると思っていたが、実際は30~40代、もしくはそれ以上の年代の人の来場が多い」(同)としている。「未開拓層へのアプローチとしても有効に機能している」と同社では分析している。
オフィス利用でコスト抑制
 コスト面については「オフィスの一角を使用しているので、新たに発生する場所代はない。装飾に関しても、もともとの内装に商品展示をする程度のアレンジを施しただけなので大きなコストは発生していない」(同)としている。加えて「完全予約制のため、ショールーム専属のスタッフを常駐させる必要もなく、人件費がかさむこともない」(同)と言う。
 ショールーム来場者の約8割はオーダーメードTシャツの注文に至るという。「オフィスの一角を改装して開放するだけでも、十分ショールームとしての機能は果たせる。米国では、マンションの一室でECサイトを運営している個人事業者が、そのマンションをショールームとして開放しているケースもある。国内の小規模EC事業者にとっても『リアル展開』はハードルが高いものではない」とEC事業者のリアル展開を推奨する。
 ワイシャツECを展開する柳田織物も14年9月に、オフィスの一角にショールームを設けた。開設から半年間で200人以上が来場。来場者の約8割が商品購入につながっているという。
 小規模事業者がリアル展開するにあたっては、カフェの一角を間借りするケースもある。海外ファッションECのwaja(本社東京都、小安光司社長)は4月、都内・原宿アルタのカフェのスペースに商品を置きショールーム型のサービスを開始した。
一日1500円でポップアップストア展開も
 オフィスに開放できるスペースがない場合などは、イベントスペースを借りる方法もあるだろう。イベントスペースを安価で借りることができるサービスも、近年は登場してきている。地方のEC企業が、都市部でリアル展開したい際にもこういったサービスは役立つだろう。
 EC事業者などのリアル展開を支援するカウンターワークス(本社東京都、三瓶直樹社長)が展開するスペース貸しサービス「ショップカウンター」では、自由が丘の期間限定店舗スペースを一日の賃料1500円から借りることができる。
 リアル展開は、ECサイトの認知度向上や顧客とのコミュニケーションの強化を図る場として役立つ。まずは、コストを極力かけないリアル展開を模索することにより、手応えを確かめてみるのも一つの方法と言えるだろう。

記事は取材・執筆時の情報で、現在は異なる場合があります。

EC売り方研究所 連載記事
List

Page Topへ